2011年4月2日土曜日

アーメット・アーティガンの決断by k.m.joe

※レイ・チャールズの伝記映画『レイ』のレビューの一部です。アーメットはレイを発掘した人物で、黒人音楽専門レーベル(やがて一本筋の通ったロックやジャズも取り扱う総合レーベルとなる)<アトランティック>を創ります。ここに書いた文章は、レイが白人主体の<ABC>レーベルに移籍するかどうかという微妙な背景を元にまとめました。通常なら(音楽マニアとしても経営者としても)レイの移籍を許さない所ですが、アーメットは一段高い視野に立った結論を下しました。後に<アトランティック>が大レーベルになったのも肯けます。

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レイ・チャールズが最初に所属した<アトランティック>は、映画『レイ』の中でも重要な役どころだったアーメット・アーティガンが共同経営の形で立ち上げました。映画の中で相棒役だったジェリー・ウェクスラーは元ビルボードの記者で、後から入ってきた人です。

映画を観た方はお分かりでしょうが、とても手作り感のあるレコード会社で、いかにもマニア達が自分の感性をフルに発揮して創り上げたという感じがします。

映画の中で、ジェリーが若いスタッフを「トム!」と呼び付けていましたが(トムとジェリー!)、彼はおそらく後に有名プロデューサーとなるトム・ダウドと思われます。

ソウルの名レーベル<スタックス>が<アトランティック>の傘下になった時、トム・ダウドが派遣されたのですが、<スタックス>のスタジオが余りにオンボロだった為、先方のスタッフが「何か必要な物は?」と尋ねた時、「先ず工具が必要だね」と言ったそうです。

全然関係ない話でした。

さて、当初レイ・チャールズは、家庭的雰囲気があり、自分を育ててくれた<アトランティック>を去る気は無かったようですが、多額の契約金もさる事ながら、<アトランティック>にレイ・チャールズの作品を出し続ける権利を取得させた事と、自分の好きなようにやらせるという条件をのんでくれた事が大きかったようです。特に資金力のある<ABC>なら、ストレートな黒人音楽止まりの<アトランティック>に比べ色んな挑戦が出来ると考えたのが大きかったのではないでしょうか?

興奮して大反対するジェリーとは反対にアーメットは沈思黙考し、結局レイの移籍を了承しました。その時アーメットにはレイの考えが読めたんだと思います。

彼の決断はレイの人生に留まらず、音楽界にとって重要な決断だったと今となって思います。彼は目先の「金づる」に捉われず、自分が愛するレイ・チャールズが、自分の好きな黒人音楽をどう変えるのか見たかったんだと思います。

場面はレイ・チャールズの<ABC>での初録音の光景に変わります。私は最初うへーっと思ってしまいました。「ジョージア・オン・マイ・マインド」を歌うバックで白人のオーケストラが曲を盛り上げています。黒人の合唱団が後ろにいますが、ゴスペル唱法(声をバーンと前に出す)ではなく、西洋的なもったいぶった歌い回し(黒人音楽からすると)です。

しかし、良いんです。真っ黒のリズム&ブルースにさんざん浸かった後に聴くと、何だかじわーっと染みるものがありました。

その後、大劇場で白い顔が八割方を占める中で、「カントリーを聴いてくれ」と言って歌い出した時もレイレッツが最初変な感じだったんだけど、やっぱり良いんです。

レイ・チャールズ本人が体に染み付いた音楽を採り上げているのでギクシャクしてないんだと思います。

レイは「してやったり」の気持ちでいっぱいだったでしょう。

そしてアーメットも同様に喜んだのではないでしょうか。

1 件のコメント:

  1. 御美子4/05/2011

    映画、特に音楽をフィーチャーしたものが大好きなので

    『レイ』も是非観てみたいです。

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