2018年3月23日金曜日

男女、命懸けの差 by ショウ

”ふと見上ぐ 梅花浮かぶや 透き宙(そら)に”

 彼の言う、お付き合いでの約束事の多さに、高三の成美は、いささか意気消沈のまま、帰りの電車の中で、会話を反芻していた。
 ―お金、私がいいよって言わない時は割り勘。病気、何股掛けてもいいけど、性病だけは持ってこないで。妊娠、この責任は女性が100パーセント―
 お金の事と病気の事は理解できたが、妊娠の責任は理解できなかった。成美は女性としていつかは妊娠するだろうし、それが女性の証明だとさえ思っていた。しかし、一人でそうなる訳はないのだから、50%は男性にも責任が有ると言った時、彼は、
 ―今日は危険日って知っているのは、どっち?―
女性の方だった。だが成美は危険日を告げれば責任は対等でしょと、言ってみた。が、
 ―それでも女性側だよ―
 無情な男だと思い、もう会わない方がいいと思った。
 この時、優先席の妊婦に気が付き、望んで、それとも成り行きで? いずれにしても、この状態が彼女には280日間も続く。男には、これがない。これに耐えうるものが、女の私の中に有るのか無いのか、彼はそれを言ったのかもしれない。

  そういえば女子高の先輩が、
 「男に勝つことは簡単でも、自分のサガ(性)に勝つって大変よ。特に19前後の女にはね」
あの時、成美が、
 「両方が負けそうだったら?」と、聞いてみると、先輩は、
 「産んで乳離れまでは女の責任だけど。その後は男の責任なの」と、キッパリと言われ、成美にも理解できたが、その後の女にも責任はあると思って、
 「女って案外、残酷ね。産み捨てとか子殺しって女だけやるし」
と、言ってみた。
 「逆よ。食わせなきゃ死んじゃうでしょ。女は280日でも男は生涯よ」
 「妻子に対して?」
 「妻によ」
 「子には?」
 「母親は命懸けで産んで、夫婦でせいぜい子の二十歳までね。それまでが大変だからって、妻も仕事で夫を助けるわけじゃない、ね、女は優しいでしょ」

 電車が成美の降りる駅に着き、明るいホームに立った瞬間、
――仕事で大変な男でも、お産でご主人が死んだという話、聞いた事がないわ――

2018年3月9日金曜日

どっちが先 by ショウ


 村道の右手は薄氷の張った田んぼの遥か彼方に、白く聳える奥羽山脈が静かに横たわり、反対側に生えている大きな松の枝先が道に覆いかぶさり、その下を行く女子高生三人が映える。
 制服姿が寒そうに見えるが、手袋に好みの柄のマフラーを顎も隠れるようにし、軽やかに家路についている。犬を連れ自転車に乗った村の青年とすれ違うと、三人はクスクスと顔を見合って、はち切れんばかりの笑顔で青年の背を盗み見する。そして景色に見とれている小顔系の美香利が、
「ネネ、今の何点?」
 と、敏江に青年の採点を聞くと、貞美が、
「あいつの弟、クラス同じなんだけど。部屋にね、エッチ本一杯だってよ。でさぁ、見たのって聞いたのよ」
「見たって?」
と、美香利が貞美に聞くと、
「見るかぁ、あんなのって叱られちゃったわよ」
 すると敏江が、
「あんなのって言ったわけ?」
 この敏江の言い方に美香利は少し戸惑った。すると貞美が、
「ね、敏江、どういう意味、それ?」
「そうでしょ、あんなの、って言う事は見たから言えるセリフじゃない?」
 美香利は、そうかもしれないと思い、見ると見ない。どっちが普通か、少なくとも学校や両親からは良いよという話を聞いた事はなく、少し沈んでしまった。すると敏江が、
「興味持っていいんじゃない、普通よ。でしょ」
と二人に言い放った。すると貞美が、
「ライオンなんかはね、メスが最初なんだって、発情が」
「人も?」
 と、美香利が山脈から目を移して声を出した。すると、貞美が
「そっ!!」