2018年11月13日火曜日

秋の日々に・1<ホテルリッツのレストラン> by Miruba

 パリの自宅に戻ってから早一か月! いつも思うことだが、月日の経つのは本当に早いもの。なんでも、年を取ると刺激を感じることが少ないので、時間経過を早く感じるのだとか。反対の気もするが、確かに旅行などをしていると、見たことのない物や場所を観るので、知らずに刺激を受けているからか、時間はゆっくり過ぎている気がする。
 10月は誕生月。この年齢になるとめでたくもないが、お祝いをしてもらうとやはり嬉しい。パリに入る前東京の娘夫婦の家に泊まったらケーキが用意されていた。

 ここ数年は旅行中の誕生日が多かったのだが、今回はパリでレストランにお呼ばれ。十数年ぶりのホテルリッツでの食事~。
 オペラ座を正面に見て左の道を行く。ヴァンドーム広場に面したところにホテルリッツがある。オテル・リッツ ( Hôtel Ritz )は、パリの中心部、1区にある壮麗な高級ホテルである。1898年創業、スイスのホテル経営者セザール・リッツと料理人のオーギュスト・エスコフィエの協力のもと設立された。居室に隣接した浴室や電話、電気を各部屋に設置提供したのは、オテル・リッツがヨーロッパで初めてだったという。その贅沢さがまたたくまに評判になり、王侯、政治家、作家、映画スター、歌手等を顧客に迎えることになった。スイートの幾室かに、ココ・シャネルやアーネスト・ヘミングウェイら著名な宿泊客を記念して、名前が付けられている。(Wikipediaより引用)ココ・シャネルもヘミングウェイも何年も滞在したことで知られている。4年にわたる460億円の大改装を経て2017年に再開業した。

 ミシュラン一つ星のレストランと、2つ星のレストランと2軒入っている。2つ星レストランの副シェフは、Mr. Asanoさんという日本人だ。素晴らしいね。

 地下にあるサロンはダイアナさんが最後に食事をしたところだそう。ロートレックの絵がさりげなく掛けてあったりする。
 左はバーテンダーのコリン・ピーター・フィールドさん。政治・経済からカルチャーまでの知見が高い彼が待つカウンターを訪れるゲストは毎夜、後を絶たないとのこと。「ミリオネラの常連も多いけれど、マダムのような美しい方も大勢いらっしゃいますよ」ですって~

 席には、Joyeux Anniversaire「お誕生日おめでとう」とカードが入ったランプが。 ワイン一本でお手ごろな値段で(ハーフボトルなのに)1万円もする~^^ もっとも、私が見るメニューには金額は表示されていません。男性は、ドキドキだろうなぁ^^

 

どの料理も凝っていて美味しい。量も心配するほど多くはなくちょうどよかった。


前菜1 ・ 前菜2
魚 ・ ハト
 

デザートめちゃくちゃ凝ってた ひも状のチョコレートが束になっていてさらにロールしてある、中にはチョコレートムースが入っている。
 

他にも誕生日のためのケーキも出てきて、とても食べきれなかった~




 数日後、Mr. Asanoをアペリティフ(食前酒ミニホームパーティーのこと)にご招待したが、休日出勤を余儀なくされたとかで、ドタキャン、残念。

 アペリティフの時の用意、これにナッツやチーズを付ける。飲み物はシャンパン、ワイン、ビールやジントニックなどカクテルを提供する。おしゃべりがメインなので、そのまま夕飯に入っちゃうこともある。この日の夕飯用は鶏手羽と栗の甘辛煮を作ってあった。昔は毎週のようにアペリティフミニパーティーで友人たちを読んだり、また呼ばれたりしたものだ。

 この年になると、お友達たちは、日本に帰ってしまっていたり、こちらの友人たちは亡くなってしまったり、地方に越していったりと、ずいぶんと寂しくなってきた。子供たちがいないので、ママ友との付き合いもなくなったから、余計だ。新しい友人を作るにはなかなか~ 気に入った友人だけで、付き合うには十分。なんて若いころは思ったものだが、友達は多いに越したことはないな。だって、放っておいても、だんだんいなくなるのだからね。

 次の日のお昼は、マッシュポテトとフランクフルトのボイル、ぐっと庶民的だけれど、これがおいしかったりするのよね~。お昼から、残ったワインにグレープフルーツジュースを混ぜて、サングリア風。衛星放送を見ながらのんびりしていると、なんと贅沢な時間かと思ってしまう。前回リッツに来た時からすると、随分と周りが変わってしまった。自分は何も変わっていない気がするけれど。そういえば、シミもしわも増えたかも。ヤダヤダ

 リッツで用意してくれたバラの花、その後2週間も奇麗に咲いてくれた。花からして選別された良いものがつかわれているのね。感心した。別に高級であることがすごいことではないけれど、プライドを持って仕事をするって、そういう事なのかもしれないな、と思った。

2018年9月28日金曜日

モン・ファヴォリ【Mon favori】=私のお気に入り by Miruba

西洋ゆびぬき・木製
「あなたの今の  "お気に入り"  は何ですか?」

 あるアンケートの質問を受けました。
 さて、"お気に入り"  だけでは漠然としすぎていますね。
"お気に入り<の場所>"ですとぐっすり眠れるベットの中、とか、ゴルゴ13を読みながら入るお風呂とか、静かなBARのカウンターとか、飛行機の発着が見えるカフェの窓際とか、絞りきれません。
 "お気に入り<のこと>"でしたらやはり旅行と言えるかも。
 でも、絵を描く事も、文章を書く事もお気に入りですし、今は、映画館もお気に入りになるかしら。映画ではなく映画館です。映画鑑賞ももちろん目的ですが、映画を見ながらポップコーンを食べてビールを飲む、というシチュエーションが癒される時間なので、映画館がお気に入りと言えるのです。
 ダンスもお気に入りの一つですが、見るより踊るほうが好きなので、運動を"お気に入り"の中に入れるのは、どうなのでしょう? いいのかな?
 "お気に入り<の音楽>"となると、ダンス音楽になってしまいますが、ダンス音楽はテンポが決められているのでずっと聞いているとちょっと飽きる。で、やはりジャズかな~題名や演奏者などほとんど覚えない無精者ですが、BGMには最高です。
 飲み物でしたら「ダンスの後のビール」か「カクテル」かな、「リキュール」や「ブランデー」、「ワイン」もいいですよね。「梅酒」も捨てがたいし……となると、お気に入りは「アルコール」ということ? あら、お気に入り<の飲み物>がアルコールでは、依存症? などと思われそうですね。
 着るものへの執着はほとんど無いのですが、いつも着ているマーメードの黒のスカートとハイネックの黒のTシャツをある意味「固執」したように着ているのは傍から見れば「私のお気に入り」に見えるでしょう。要は考えるのが面倒なだけなのですが……昔からずっとその恰好だったわけではないので、お気に入りのスタイルというのも変わりますよね。現に、ヘアスタイルなど今のお気に入りはアップにしてバレッタで留めることですが、若いころはボブスタイルで、一生ボブで通すと思ったものです。でも、年齢が行くと似合わなくなり、髪が薄く毛も細くなって思ったようにスタイルが保てなくなりました。
 食べ物だったらなにかしら。
 今"お気に入り<の食べ物>"は、塩にぎりかな~。肉体労働をしてくる従業員のみんなに、仕事終わりの5時ごろ小腹が空ているだろうと、おにぎりを作り始めて、もう何年になるかしら。もちろん、気の向いた時ですから、2週間に一回くらいですけれど。ま、これが我ながら美味しい。「コメ変えたんか?」「いんやあ 釜変えたんだ」なんてコマーシャルがありましたが、電気釜は新しい方が断然いいです。ご飯の出来具合が全然違いますね。

「今、 "お気に入り"  は何ですか?」
 と質問されたとき、趣味のこと、またはコレクションしていることなども、お気に入りと言っていいかもしれません。私の趣味はダンスと旅行、絵を描く事、ものを書くことと言えますが、あと、指貫(ゆびぬき)の収集も趣味と言えるでしょうか。
 指貫とは、裁縫の時に使う針から指を守る指サックのようなものです。ですが、ヨーロッパではコレクションの対象として、どこに行ってもそこの土地の観光地や建造物などを現した指貫がお土産用として売られているのです。

マリーアントワネット(ヴェルサイユ宮殿で)
ローマ(イタリア)
シャモニーモンブラン(スイスで購入)
 
 ベネチアンガラス製(イタリアムラーノ島で)
国産ガラス製(小樽のガラス工房)
ガラス製(箱根・星の王子様ミュージアムで)

最近、指貫の上に馬やらマリア様像のついた、到底指貫目的ではないといわんばかりの物が多く出てきました。

フランス北オンフルールの牛
チーズを運ぶ女の子・オランダ製 
フランス・モンサンミッシェルの馬
フランス・ランスのマリア様

 私のコレクションはヨーロッパ旅行をした先々で購入したものですので、パリの自宅にほとんどあります。今の"お気に入り"って、この指貫ですね。

 とはいえ、アンケートに「お気に入りは、指貫」と答えても、日本ではわかってはもらえないかもしれませんね。

 あなたの今の"お気に入り"って、なんですか?

指貫の他にも、フェーヴといって、2月のお祝い、アーモンドパイの中に
入っている陶器でできた小物、日本製の陶器の野菜などもあります。

2018年5月18日金曜日

「なぜメデタイの?」 by ショウ

二十二歳で未婚の成美は、
「産むのは女でも、育てるのは男か、産むも育ても女か、共同?」
と思って、理想は共同だと思ったが、そんな単純なわけがない、結婚しても離婚があるのだからと、自己否定をした。
それでも成美は、友達の中で結婚の話が出ると、結婚がなぜめでたいのか、なぜ結婚をする男女を祝福するのか、それを知りたかった。
成美としては、めでたくないとか、祝福したくないというわけではなく、何がめでたく、何を祝福するのかを知りたかっただけだった。
初めの頃、結婚とは合法的売春、子造許可証とか子造練習をしたいだけとか、セックスライセンス、そんな気がしていた。
女は視線を感じただけで、セクシャル・ハラスメントだと騒げる本能的性感はあるが、成美は自分が化粧する事は逆ハラスメントかも、そう思う時すらあった。現に兄の会社で、
「イメチェンしたね」
と、女性社員の髪型を言っただけで、ハラスメントだと言われ、兄は、
「女性の気分次第で、どうにでもなってしまう」
と、こぼして困惑していた。
成美は兄のそんな話を聞いて、不意に高校の生物の先生の話を思いだした。
―― すべての生物は、その種で宇宙征服を望んでいる ――
だった。その生物は意思を持ってそうするのかはともかく、本能だろうくらいは理解でき、人間もか? と成美は思った。
もしそうなら、結婚とは種の保存行為への儀式という事になり、確かにめでたい気がし、祝福の言葉も無限にあるように思えた。
某官僚の話も話題になり、
「あれは暴言だな」
と、兄も言って、
「女性の容姿やメイクを褒めるとセクシャル・ハラスメントだなんて、トラップじゃないか」
と、兄は嘆いた。
「大丈夫よ、お兄ちゃんにトラップ掛ける人いないから」
「どうして?」
「お兄ちゃんは、お金も力も、無いから」
と、成美は言って、“無いから”に力が入ったなと、浅ましさを感じた。

―― 了 ――


2018年4月20日金曜日

舶来好き by ショウ


.   純也が高校の同級生の垂香に会うのは高校卒業以来で、五年ぶりだった。
 当時の歴史の先生が、
 「母国の歴史を母国語で理解することこそが、英会話ならず他の外国語を身に着ける一番のコツというか、早道だ」
と言った先生の話で、小太り垂香は歴史科目だけは常に一番の成績を取っていた。それを試すかのように高校を卒業すると欧州へ行き、
 「帰国したよ」
と、三日前に五年ぶりの電話があった。
 純也は小太りの彼女をスイカスイカと虐めに似たようなからかい方をした事が、今更ながら恥ずかしく浮かんだ。
 もうすぐ二十五歳を目前に、純也は歴史の先生の話をできるだけ思い出し、垂香の話を理解しようとしていたが、いくら考えても、母国の歴史と外国語は結び付くこともなく、イヤゴザッタ(1853)ペリーさんとかの覚えていた当て句とかをぶつぶつ言うに過ぎなかった。それでも純也は気持ちのどこかに何かが引っ掛かったような、歯の隙間に刺さった取れ難い小骨のような思いが募ってしまい、垂香に電話をした。
 彼女のどこか誇らしげな声がし、自慢されると思うとむかついた。そして垂香の経験に嫉妬している自分が情けなくなると、聞いて学ぶか遣り込めるかしないと気が済まなくなり、時間の取れる日を聞いた。すると、
 「明後日なら暇だから」
と、いう事で会う事になった。

 その日、初夏を思わせる陽気に、葉桜のすきまから青空が見え隠れする桜並木の道で純也は、――やっぱり日本人だな――と、ほくそ笑んだ。
 待ち合わせの喫茶店は桜並木の傍にあった。
――まだ少し早いな――と、思いながら腕時計を見ると、約束の五分前だった。
 ふと、向こうを見ると、立てばシャクヤク座ればボタンと親父が美女を例えて言っていたような美女が近づいてきた。
 純也はシャクヤクとボタンが、どんな花かは知らなかったが、歩く姿はユリの花のユリは知っていて、頷いてニヤつき、それが垂香と知って、小さな溜息さえ漏れた。
 ライトブルーのブラウスにライトグレーのミニスカート。七分のスプリングコートをラフに着こなし、裾がわずかな風にさえひらめいている。
 純也は本当に小太り垂香だろうかと一瞬自分の目を疑い、生唾を飲みこむほどだった。
 小難しい哲学かなんかで遣り込めようという作戦は微かなそよ風にさえ、吹き飛んでいた。それでも互いを確認すると、精一杯に純也は、
「やぁ」
と、声をかけた。それに垂香は、肘を曲げただけで掌を見せ、小さく手を振って応えた。
 それを見て純也は、――思い込みと現実の差が大きいほど声も出なくなる――と、葉桜の隙間から自分を見たような気がした。喫茶店に入り、
 「コーヒー」
と、いって、Vサインをしただけで、まだ声が思うようには出なかった。
 どことなくもじもじする純也を、垂香は少し肩をすくめクスッとする。運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、垂香は英国英語と米国英語の違いやニューヨーク発音の違いの話をした後に、
 「日本人は歴史に、なぜという言葉を持たないから、根の無い上辺ばかりの話になり、会話が盛り上がらないのよね」
と、言うのだが、純也は頷いて相づちは打つが、理解できなく聞き役に回っていた。
 今まで、友達の誰からも理屈っぽいと言われながらも説得できていた事が、どうにも浅はかに思えてきた。その時に垂香が、
 「外人は綺麗事言うけど、本音は全く違って、いつも不安なの。だから一日に三回はアイラヴユウと言わないともう不安は頂点に達し、おしゃべりが止まらなくなるの。中身の濃い話をと勉強できたのよ」
 「外人とかい?」
 「英国人だもの、でも初めは嫌われたみたい」
 「厭じゃなかった?」
 「辛かった分、どんどん深みのある会話ができたわ。外人って、こっちの歴史で私を理解するみたい」
 「母国の歴史を知らないと、相手を理解できなくなるって事かい?」
 「だと思うわね」
 「んなのって、興味あまりないんじゃないの、普通?」
 「ね、だからいつまでも舶来コンプレックスって事に気が付かないで、外国文化を真似して喜んでるのよ」

2018年3月23日金曜日

男女、命懸けの差 by ショウ

”ふと見上ぐ 梅花浮かぶや 透き宙(そら)に”

 彼の言う、お付き合いでの約束事の多さに、高三の成美は、いささか意気消沈のまま、帰りの電車の中で、会話を反芻していた。
 ―お金、私がいいよって言わない時は割り勘。病気、何股掛けてもいいけど、性病だけは持ってこないで。妊娠、この責任は女性が100パーセント―
 お金の事と病気の事は理解できたが、妊娠の責任は理解できなかった。成美は女性としていつかは妊娠するだろうし、それが女性の証明だとさえ思っていた。しかし、一人でそうなる訳はないのだから、50%は男性にも責任が有ると言った時、彼は、
 ―今日は危険日って知っているのは、どっち?―
女性の方だった。だが成美は危険日を告げれば責任は対等でしょと、言ってみた。が、
 ―それでも女性側だよ―
 無情な男だと思い、もう会わない方がいいと思った。
 この時、優先席の妊婦に気が付き、望んで、それとも成り行きで? いずれにしても、この状態が彼女には280日間も続く。男には、これがない。これに耐えうるものが、女の私の中に有るのか無いのか、彼はそれを言ったのかもしれない。

  そういえば女子高の先輩が、
 「男に勝つことは簡単でも、自分のサガ(性)に勝つって大変よ。特に19前後の女にはね」
あの時、成美が、
 「両方が負けそうだったら?」と、聞いてみると、先輩は、
 「産んで乳離れまでは女の責任だけど。その後は男の責任なの」と、キッパリと言われ、成美にも理解できたが、その後の女にも責任はあると思って、
 「女って案外、残酷ね。産み捨てとか子殺しって女だけやるし」
と、言ってみた。
 「逆よ。食わせなきゃ死んじゃうでしょ。女は280日でも男は生涯よ」
 「妻子に対して?」
 「妻によ」
 「子には?」
 「母親は命懸けで産んで、夫婦でせいぜい子の二十歳までね。それまでが大変だからって、妻も仕事で夫を助けるわけじゃない、ね、女は優しいでしょ」

 電車が成美の降りる駅に着き、明るいホームに立った瞬間、
――仕事で大変な男でも、お産でご主人が死んだという話、聞いた事がないわ――

2018年3月9日金曜日

どっちが先 by ショウ


 村道の右手は薄氷の張った田んぼの遥か彼方に、白く聳える奥羽山脈が静かに横たわり、反対側に生えている大きな松の枝先が道に覆いかぶさり、その下を行く女子高生三人が映える。
 制服姿が寒そうに見えるが、手袋に好みの柄のマフラーを顎も隠れるようにし、軽やかに家路についている。犬を連れ自転車に乗った村の青年とすれ違うと、三人はクスクスと顔を見合って、はち切れんばかりの笑顔で青年の背を盗み見する。そして景色に見とれている小顔系の美香利が、
「ネネ、今の何点?」
 と、敏江に青年の採点を聞くと、貞美が、
「あいつの弟、クラス同じなんだけど。部屋にね、エッチ本一杯だってよ。でさぁ、見たのって聞いたのよ」
「見たって?」
と、美香利が貞美に聞くと、
「見るかぁ、あんなのって叱られちゃったわよ」
 すると敏江が、
「あんなのって言ったわけ?」
 この敏江の言い方に美香利は少し戸惑った。すると貞美が、
「ね、敏江、どういう意味、それ?」
「そうでしょ、あんなの、って言う事は見たから言えるセリフじゃない?」
 美香利は、そうかもしれないと思い、見ると見ない。どっちが普通か、少なくとも学校や両親からは良いよという話を聞いた事はなく、少し沈んでしまった。すると敏江が、
「興味持っていいんじゃない、普通よ。でしょ」
と二人に言い放った。すると貞美が、
「ライオンなんかはね、メスが最初なんだって、発情が」
「人も?」
 と、美香利が山脈から目を移して声を出した。すると、貞美が
「そっ!!」

2018年2月9日金曜日

無名人 by ショウ

 喜寿を迎えた猪之吉はいよいよ口達者になっても相変わらず老妻モミジのおさがりのワンピースを着て、テレビを見ていた。
 娘の松子は娘の桐子を大学に入れ、離婚騒動も納まり、仕事休みの楽しみだった買い物にも出るようになった。
 テレビでは相変わらず不倫騒動の文秋砲が炸裂している。
 そこに着物姿のモミジがお茶を持って来て、猪之吉の横に置き、
「有名人はすぐ騒がれて、ドジなのね」
と、吐き捨てるように言うと、猪之吉が、
「桐子の受験で松子が付き添って行き、その後すぐだったな。離婚騒動があったのは、松子はさ、夫婦の問題だからもう言わないでとか言うから、事情を深くは聞かなかったが、本当は、何があったんだい」
と、気になっていた事をモミジに聞いた。が、モミジはテレビをじっと見つめている。
 そこに松子が買い物から戻ったのか、玄関で声がし、台所でも音がして、やがて老親の居る居間に来ると、
「又なの、文秋砲。有名人ってホント損ね」
と言い捨て、軽い笑みで松子が、
「有名人じゃなくてよかった」
と、一こと言って鼻から笑みを漏らした。