2013年12月7日土曜日

多寡先警部補の事件簿 ~原ヶ島殺人事件~5 by 響 次郎


黒い一声
(1)
 警視庁には、普段使用されていない部屋が有る。それも、地下深くの、特別なフロアに、である。それは特別な重役警官が使用する部屋であった。いや、重役警官という造語では薄っぺらいかもしれない。とにかく『特別中の特別な』裏の存在であった。
 そこに、重役警官Aから重役警官Cまでが集まっていた。Aから順に、[アベ(バーコード)]、[ベンシ(車好き)]、[シルクロード(チャイナドレス趣味)]と名乗った。一般的に「ハンドルネーム」に相当する物で、ハンドルネームの後ろは愛称みたいなモンである。
※愛称まで含めると長い為、単純に英数字にさせて頂く(作者)

Bが、宝石が埋め込まれたタブレットを眺めて言う。「エレファントはまだかな?」
 それに対しAが「離島だから、アクセスに時間がかかるんだろう」と言った。Cが「そろそろ『タイムアウト』が来ちゃうじゃん。俺、新宿の有美ちゃんとこに行きたいんだけどなぁ」ともがいた。有美ちゃんは、高級キャバクラに勤めている。Bが「欲望は抑えておくものだ」と静かに言った。そのBも、欲望の制御は難しいらしかった。
 一呼吸置いて、チャットルームに入室した者が居た。例の重役警官E、[エレファント(ジジィ)]である。「申し訳ない。部下と話していたものでな」と、ノロノロした文章が、打ち込まれる。「エレファント。遅いじゃないか、さっさと済ませようぜ」と、C。「ああ。シルクロード、そうしよう」とE。
 Dの[ドラクエ(軍事マニア)]が欠席した四人で、極秘の会議が行われた。

(2)
「……という訳でな、連中に殺人を嗅ぎつけられる前に、何とかしたいのだ」
 Eが言った。
「連中ってのは、マスコミか?」とC。
「それもあるが、野次馬とか世間もだ」再びE。
「Dにまた、ひと騒ぎして貰いますか」と、Aが会話に割り込む。
「奴に頭を下げなければならんのかのぅ」とE。
「じゃあ、この極秘会議は無かった事にしましょうか。巡査と巡査部長だけで大変だなぁ」と、他人事(ひとごと)のようにBが言う。
 言葉を続けて、「これが済んだら『ザギンでチャンネーとシースー』ですよ」と、二十年前くらいのギャグを言う。キメたつもりが決まってない。
「いやいやいや。是非、お願いするよ」とEが焦る。
「じゃあ、またパトカー八台に消防車五台、機動隊百二十五人ってトコで決着しましょうか?」とA。
「ZX組とYZ組は、仲が悪いからな。二年ぶり位でしたっけ?」とB。
 言うまでもなく、組とは暴力団の事である。
「一つのテナントに複数入ってるトコとか、レンタルになってる地区は、避けた方が無難っすよ!」とC。
 最近では、資金集めが大変だと聞く。そんなニュースをどこかで見た(作者)
 そこへ、Dが入って来た。会議室、続いてチャットの順に、である。
「お疲れさまです」「お疲れで御座います」
「超、乙カレーっす!」
「おぉ、お待ちしておりましたぞ」
 メンバーが口々に言う。いや、正しくは「口々に打つ」が適切だろう。目の前の人間よりも、メールやらLINEの方が重要だという、考えてみれば、奇妙な時代だ。
 ここの会議室で、言葉を発しているのは、ピンクのフリルを着た、メイドさんくらいなものだ。
※なぜメイドなんだという感想やコメントは受付けない(笑)
それと、暇な読者はAから順にEまで並べてみて欲しい、ごほん。

(3)
 CがDに、会議の概要を説明する。今北産業と言うほど、短くはない。それをフンフンと聞き、それから、タブレットを手にして、「……」と打つ。
 Dが『一声(ひとこえ)』を発する前に、必ずする癖である。
「では……」
 それまで、六本木だ銀座だと(肉声も交えて)騒いでいたCも、この時は黙っている。
「パトカー十四台! 消防車六台! 機動隊二百七十五人! 負傷者一名!」と、まくし立てるようにD。
「負傷者一名と言うのは……?」とE。
 漆黒の会議室で、四人が顔を見合わせて、ふふっと笑う。メイドだけが引きつった顔で、コーヒーのお代わりを配りに、席を回っている。
「もちろん。アナタですよ。Eさん! 大丈夫。航空自衛隊の超スーパーウルトラハイパワーヘリだったら、初島から首都東京まで十二分で着きますからッ」
「そ、その超スーパーウルトラヘリというのは、(運用に)幾らかかるんじゃ?」とE。Dがニヤリと笑みを浮かべながら「知りたいですか……?」
 続けて「まー、知っても仕方ないですが、貴方も一応は黒メンバーですし、お教えしますと、十二分間で六億七千三百四十四万円です」
 2013年に、何処でどーゆー技術や装備を整えれば、極めて短時間に首都東京へ着くのか、誰にも判らなかったが。とにかく。花咲署長は、七月九日午前十時三十二分に、警視庁の屋上にあるヘリポートに着いた。

 この章を終える前に、時系列を整理しておきたい。多寡先警部補が、第562方面での命を受けたのは八時四十四分。そこから二十分ほど経って、専用船で浜下港まで移動して九時三十三分。駐在所に着いて、多寡先から花咲へ電話したのが、十時前。黒会議が九時五十分あたりから、十時二十分ぐらいまで行われていたと、推測できる。よって、署長は十時三十二分に警視庁へ到着できるのだ。
 彼(花咲)にとっても、この一日は、死ぬ思いの連続だったに違いない。しかも「出来レース」とは言え、負傷者にならなくてはいけないのだから。
(つづく)

1 件のコメント:

  1. 暇だったので、ABCDEさんのコードネームが
    しりとりになっているのが分かりました。
    遊び心いっぱいですね。w

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