2011年12月17日土曜日
とある休日•8最終話by やぐちけいこ
それから2週間ほど経った休日にボストンバッグを持った母親が自宅に帰って来た。
驚いている俺の顔を見るなり「霞ちゃんに追い出されちゃったわ」とあっけらかんと笑顔を見せる。
一瞬何を言われているか理解出来なかったがその言葉の意味が浸透してきた時には母親は自室で荷物の整理をしていた。
「追い出されたってどういうことだ?」と聞いても「う~ん。言葉通りよ。これでも粘ったのよ。でも霞ちゃん自身が一人でも大丈夫って笑ってくれたの」
「だからって…」最後に見た霞の顔が忘れられない。あんなにも何かに耐えるようにして今にも折れそうになっていた彼女だったのに。
知らずと下を向いて床を睨んでいた。
「もっと霞ちゃんを信じてあげなさい。あの子はあの時の小さな女の子じゃないわ。少しずつ少しずつひとり立ちしようと努力しているのよ?それを助けてあげなさい。」
俯いていた頭の向こうからそんな言葉が降ってきた。ハッとして顔をあげると真剣な目をしてこちらを向いていた母親と目があった。
「霞ちゃんはね、確かに精神的に弱い部分を持ってるわ。あんな悲しい出来事があったのだから誰だって臆病になると思うの。きっとまた身近な人を失う恐怖心を人一倍持ってると思うのよ。そんな彼女にしてあげられる事って何かしらね。可哀想と思う事?外に出さないように囲う事?違うわよね。よく考えて答えを見つけなさい。それと、今まであなたがしてきた事にもっと自信を持つことね」それだけを言うと再び荷物の整理をし始めた。
その姿をしばらく見ていたが何となく頭にかかっていた靄が晴れたような気分になり母親の部屋を後にした。
そうだ。結局は大それたことなんで出来やしない。自分の今出来る事をするしかないんだ。
霞も言っていたじゃないか。俺のために休日を使えって。自分の休日を好きに使おう。
とある休日。とある家のインターフォンが鳴り響いていた。
ピンポ~ンピンポ~ンピンポンピンポンピンポン♪
「だーーっ!うるさいっ!近所迷惑だろ。1回鳴らせばまだ耳は達者だから聞こえると何度も言ってるだろうが!」
不機嫌丸出しの彼女の表情に安心する。
「そっちの声の方が近所迷惑よ~。それよりも天気も良いし映画でも見に行きましょうよ~。今から出るとなると先にどこかでお昼ご飯食べたほうが良いかしら。あ、それともどこか公園でも散歩する?見せたい場所があるのよねえ」と半ば強引に霞を外に連れ出した。
「どこに行くんだ」とか「家に帰せ」とか聞こえたけれど聞こえない振りをして彼女の手を引っ張っていく。映画も散歩も外に連れ出すただの口実。
霞の家から歩いて5分程と言う近い場所にそれはあった。
「ねえ。これ見て」と指さすは小さな空き地。
小さな雑草がたくさん生えている何の変哲も無いただの空き地を見て不思議そうにこちらを見ている。
「良く見てよ。あれよあれ」と言うとそれに向かって歩いていく彼女の後姿を見守った。
きっとまじまじとそれを見ているだろう霞は突然背中を震わせ笑いだした。
「おまっ、これっ」と言葉にならない言葉を吐き出しながら大笑いの霞の姿を見て久々に心からの笑顔を見る事が出来たうれしさに一瞬かける言葉を失った。ずっとこんな笑顔を見たかった。これからはいつでもこの笑顔を見せてくれるだろうと信じている。
心の中にあった硬い結び目が融けて無くなった瞬間だった。
「気に入ってくれた?」と聞くと「そうだな。相変わらずびっくり箱みたいだなあ」と涙を拭っている。「あげるわよ。それ」というと
「え?」と聞き返してくるきょとんとした顔が可愛い。
「さて。このまま帰る?それとも散歩でもする?映画も良いわよねえ。どうする?」と聞くと「近所を散歩したい」というリクエストにその場を後にした。
その空き地に真ん中には小さな木製の白い横長の看板があった。
『中々良い物を扱ってそうだな共和国建設予定地』
また今まで通りの休日が繰り返される。
了
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半年かけてやっと完結しました。
返信削除最初からここまで読んで下さった方に感謝します。
もともと三題話からのお話でした。
稚拙な部分はたくさんあったと思いますが最後までの
お付き合いありがとうございました。
いや、よく出来ていたと思います。
返信削除最後の2行に、「ああ、そこにきたのか」と感心させられました。
やられた感が気持ちいいですよ。
大変不躾なのではありますが、最初の三題話からすると、回を重ねるごとに、文章も構成ものすごく磨かれ洗練されたように感じました。
意図してなさっていたことでしたら、無礼をすみません。
どうか、これからも楽しい作品を創作なさってくださいませ。
最高です。というより、天才ですか?
返信削除ここにあの共和国が活かされるなんて
想像を遥かに超えていて「してやられた!」と
おでこを叩きたくなりました。www
ところで、毎回質問で申し訳ありませんが
薫くんは何故オネエ言葉を使うようになったんでしたっけ?
>mirubaさん
返信削除感想ありがとうございます。
全然不躾ではありません。
いろいろな事が聞けて参考になります。
意図した所は全く無いのですが、もしかしたらこの作品で
私は少しずつ成長出来たのかもしれません。
その成長過程だったのかしら。
もしそうならうれしいです。
本人的には何だか地に足が着いていないような浮遊感の
ようなものがあり、かなり手探り状態でした。
我ながら無謀な事をしたかなとも思っておりました。
これからもよろしくお願いします。
>御美子さん
返信削除褒めすぎですよぉ(^^ゞ。
この作品の原点ですからねえ、共和国は(笑)。
オネエ言葉ですが、あまりはっきりとは触れてませんでした。
この辺りも名前同様に少し書き直したり書き足したり
した方がしっくりきますよね。
霞視点では、子どもの頃入院して毎日見舞いに来た男の子が
いきなりオネエ言葉を使って同意を求められた時以来。
薫視点では、同じ場面でオネエ言葉を使った時に初めて霞の
表情が動いたのを見てうれしかったのでそれ以来って
感じです。
4話目での事です。
自分では見えなかった部分が感想を聞く事によって鮮明に
なって行くって良いですね。
これからもよろしくお願いします。
恵子さん、おもしろかったわよ。
返信削除オネエ言葉はいつからかって聞かれても困るわよね。だって、私もいつから、どんな理由で使いはじめたか覚えていないもの(笑)
>raitoさん
返信削除ありがとうございます。
面白かったって言われるとうれしいです~。
板についてますよね、オネエ言葉(笑)。
似合ってるわよ~。