2011年7月3日日曜日

寝起きのトマトは何処へ行く? by 響 次郎

編集部より出された3つのお題を使って作品をつくる「三題話」に、週刊「ドリームライブラリ」の執筆陣達が挑戦しました。第2回目のお題は「トマト、ぬいぐるみ、朝寝坊」。一見なんの脈絡もないこれらの単語を全て折り込んで、エッセイ、小説、落語などの作品を作り上げていきます。今回は、響次郎さんのミステリーをお楽しみください。
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「脅迫状が、送られて来たって?」
アスナロ署の花咲署長は、いぶかしげに部屋の入口を見た。
『そうなんですが……』と、ドアを開けつつ、多寡先[たかさき]警部補。
続いて「まず、こちらを御覧下さい」と多井刑事が紙を見せる。

【朝寝坊のトマトは・・・ぬいぐるみの様だ・・・】

なんだね、これは! と、花咲が怒鳴る。脅迫状の書式を満たして
いない。いや、脅迫以前の問題だ。こんな意味不明な物など相手に
してはいられない、といった感じだ。今にも、ビリビリに破かれそうだ。

確かに、アスナロ署を含めた地区は、800字強化月間と重なっていて、
(余計な)セリフを言う事は許されなかった。
『しかし、後にかかって来た男の声が不気味でして』と多寡先。
「本当なのかね?」の声に「はい。機械の様な声でして」と多井。

署長も件(くだん)の録音を確認してから、時間が無い、すぐにでも捜査に
入りたまえ! と、多コンビは目的のマンションへと急行した。


『ここの何処かに時限装置が仕掛けられている筈です』と多寡先が言った。
「油断は禁物だぞ。くれぐれも気をつけてな」と無線の向こうで花咲。
「了解」「りょーかい」と多コンビ。無線に(爆弾が)反応するかもしれない
ので、念の為にそれらの電源を切った。

少し進んで右を見ると、かすれた字で「都魔斗マンション11号棟」と在る。
ここで間違いはなさそうだ。が、何処に隠してあるのだろうか??
「こういう時は、右か左のどちらかに手を当てて、進んでいけば良いんです」
と多井がアドヴァイス。
端折(はしょ)るのも惜しいのだが、暫くして、時限装置と対面した。

『トマトはいいとしても、ぬいぐるみと朝寝坊が引っかかるな』
慎重に、装置を解体しながら多寡先が呟く。「それを今、考えてるんですが……」
と多井もポツリ。

『朝寝坊。寝起き、寝ていた状態から起きる…………』
「ぬいぐるみ。形状から平べったいという事でしょうか?」
『時限爆弾を解除すると、マンションもろとも、ぺしゃんこにでもなる、と?
でも。膨らんでいるぬいぐるみだって、在るじゃないか……』
「そう、ですよねぇ」
それぞれが、自分に納得させるかの様な口ぶりであった。

静寂が辺りを、世界を包む。
本部の花咲も(熊のように)ノシノシと、ただただ、歩きまわっていた。


とにかく解体出来るとこまでしようと、信管が剥き出しになる処までになった。
通常の赤や青のコードの他に、白と黒まで在る。
何故、区別できたのかと言えば、それらが他よりも太かったからである。

『どれを切るか! パオ! ヒッヒ~♪』
ムーンウォークなどして、4本全部切りそうである(危)
「マイケル・ジャクソンが亡くなったのは、6月25日でしたね?」
『そうだな。だから、白と黒のコードも在るのか』と舌打ちをして多寡先。
「青のコードに、青! とかパオ! というメモが張ってありますが」
『ミスリードだろう。犯人は誤った方向に導こうとしているんだ』
「私も、そう思います」と多井も同意した。
詳しく調べた処、タイマーの数値はダミーだと判明した。
心理的に時間が少ないと焦らせて、判断を誤らせるのは良くある手段である。

『普通の時限爆弾は、どんなんだっけ?』と多寡先。
「普通がどういう状態か分かり兼ねますが、赤と青がポピュラーだと思います」
と多井。『とするとだな。白と黒は考慮に入れなくていいな』「はい」

『問題は・・・コイツだよな』と多寡先。
「はい。良くあるシチュエーションです」と多井も多寡先の手元を見る。
で。どっちなんだ? と、目で多井に回答を求める。
多井は、視線を宙に彷徨わせた後、
「……どちらかって言えば、赤は目立つけど危険というイメージが在ります」
と、やや確信を込めて言った。
『そうだな。それで?』
「青は知性やビジネスを表したり、青い街灯は犯罪防止の効果も在ります」

一区切り置いてから、『だから、青を切れと言う事かね?』
「いや。警部補に任せますよ」と多井は、逃げ腰だった。

一か八かだっ
『覚悟はいいなッ! 赤を切るぞ! 赤だッッ』

ちゅど~~~ん!

……というのは、時限装置から流れた効果音だけだった。
時限爆弾は、爆発せずに済み、無事に解除が出来たのだった。

帰りのパトカーの車中で。
「何故、警部補は、赤に決めたんですか?」と運転席に投げかけると、
『ああ。あの脅迫状には「知性」が無かったからね(笑)』
と多寡先は言った。「それだけですか?」と多井が聞くと、
『それと。普通の人は怖くて、赤は切らないだろうからね』と笑った。

【完】

6 件のコメント:

  1. 御美子7/03/2011

    アスナロ署の皆さんは精鋭揃いなのか

    はたまた、はみ出し者の集団なのか

    判断は着きかねますが

    そこはかとなく面白かったです。(^-^)

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  2. raito7/04/2011

    刑事ものだ、刑事もの。次郎さんは、こんなのもつくれるのですねえ。おらあ、ぶったまげただ^^

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  3. 匿名7/04/2011

    御美子さん:-)
    そうなんですよねぇ(笑)

    淡くご記憶かと思いますが、暗号解読から
    時限装置の解体までと、普通の刑事のやること
    から外れてますね^^;

    多分、両方でしょうw
    毎度のコメントありがとうございます。。

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  4. 匿名7/04/2011

    raitoさん
    ええと、元祖コラムで2作と、
    羅言というサイトで1作をアップしてますです(笑)
    もう、シリーズ化で通しちゃっても構いませんよね?w

    コメントありがとうございますm(_ _)m

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  5. 匿名7/09/2011

    >【朝寝坊のトマトは・・・ぬいぐるみの様だ・・・】

    この発想にノックアウトです。
    しかも、アスナロ署管内の800字強化月間が気になります。余計なことを言っちゃいけないって・・(笑)
    そういう設定が面白い。
    楽しませていただきました。

    寿月。

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  6. miruba7/17/2011

    赤を切る

    確かに勇気がいる。

    面白かった。

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