2013年11月23日土曜日

多寡先警部補の事件簿 ~原ヶ島殺人事件~3 by 響 次郎

緊急指令

(1)
 あすなろ署から、警視庁本庁に異動した、多寡先(たかさき)警部補は、花咲署長や多井(おおい)刑事と一緒に、初島へ就任祝いという事で来ていた。
  あすなろ署は、一時期、近隣の警察署と統合され、あすなろ署自体の閉鎖という危機を経験している。その時、本庁の木崎という「特殊情報課」の刑事と競い、勝利を勝ち取った事がある。その時から、あすなろ署の存在が大きくなり始めたのであった。

 そういった功績が認められ、初島に遊びに来ていたのであったが。
「うーむ。本庁から位置確認のバッジが来とるな」
 花咲署長が、タブレットの画面を覗き込みながら言った。ちなみに、バッジとは、丸の中に数字が書かれた通知の類を指す。あすなろ署も(化石のような)デスクトップPCから、タブレット端末へと、華麗なる変身を遂げたのであった。最もこれは、特殊な例だと言ってもよい。
 多井刑事が、タブレットを(シャッターを下ろすように)上から下に引き出す動作(フリック)をすると、「本庁より、位置認証の通知が来ています」と、赤い字で書かれている。すぐ右上の×を押すと、通知を読んだという事にできる。
 こういった緊急のバッジは珍しい。現在、彼らはホテルのロビー横の喫茶室にいる。全館Wi-Fiが使えるのだ。しかも、パケット通信などと違い、月額三百八十円ほどだ。
 多寡先警部補が、皆の方とタブレットを見て『どうしますかねー』と言った。彼の気持ちは、半々であった。仕事に向かいたい気持ちと、何もかも忘れたいのと。
 しかし、ふと、多寡先警部補は、これはもしかすると、本庁(本土)の方角では無いな、と感じた。依頼は海から、である。位置確認したいという気持ちが勝ってくる。
 多寡先警部補は、多井刑事をちらっと見た。多井刑事は、それに向かってニヤリと笑った。「多コンビ」という言葉も出来てるほど、意志の疎通は、それで充分であった。多寡先警部補が、設定画面から、現在位置の認証を許可した。本庁データセンターと初島の滞在先が、情報を通じて繋がり、現在地に関する座標データが、サーバに送信された。
 この時、彼らの許可は、優先順位としては最下位であった。しかし距離からすれば、一番近い場所に位置していた。それはつまり、彼らが事態に、すぐさま対応可能だと言う事を意味していた。


(2)
「第152方面、位置確認出ました!」
「第76方面も同様です!」
「同様とは何だ? 最後まで、ちゃんと言わんか!」
 新米司令官に向かい、上司が檄(げき)を飛ばす。
「りょ、了解。第76方面の位置確認出ました!」
「らじゃ」
 警視庁の総合指令室。その中で『警視庁130708事件』に対して、即座に対応できる部署はどこかを捜していた。原ヶ島は第563方面であり、初島から最も近い。専用船で二十分もあれば、浜下(はました)港に到着が可能だ。そろそろ、時間切れになろうかという頃、
「第562方面、位置の認証完了!」
「タイムアウト」
 センターの総合指令長が、サーバの受付時間切れを告げた。にわかに、指令室が騒がしくなる。
「第562方面……?」
「初島だ」
「初島、って言うと?」
「あすなろ署だ!」
「あの、あすなろ署の面々か?」
「初島からなら、専用船で二十分あれば着くじゃないか!」
 まるで、サッカーでゴールが決まった瞬間のように、言葉と声の波が広がっていく。
「静粛に」
 指令長が、マイクの音量を上げて、言った。興奮はまだ収まらない。
「静粛に! ……ごほん」
 今度は、消波ブロック(テトラポット)に打ち消された波頭のように、静けさが広まってゆく。
 センターの指令長が事務方とヒソヒソ話し合う。その結果は、ほぼ決まったような物だが。
 五分ほどして、指令長が首を縦に振り、卓上に固定されたマイクを握る。
「あー……」指令長が、センターの総意を代表して、結果を述べる。
「それでは」
 指令長の次の言葉を、固唾(かたず)を飲んで、皆待つ。センター内に、彼の低い声だけが響く。
「本件。警視庁130708事件の解決に向け、」早くはやくと、催促する空気が流れる。
 国会の答弁の盛り上がりとは逆だ。
「第563方面の支援には……」
……。

「第562方面に滞在中の、本庁、刑事部捜査一課、多寡先警部補と多井刑事を充てる事にします」
 指令室の盛り上がりとは対照的に、第563方面の大石巡査の焦りは、この時MAXに達していた。七月九日午前八時二十六分の事だった。

(つづく)

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