2011年11月26日土曜日
日本人が知らない韓国の常識4~幼稚園児も知っている 姜邯賛~
「さあみんな、おやつの時間ですよ」
「わーい」「わーい」
「今日のガムちゃんは、よく噛んで食べるのよ」
「えー?おやつにガム?」
「それに、ガムにちゃん付けなんておかしいよ」
「まあまあ、冗談に決まってるでしょ。今日はみんなにカン・ガムチャンを紹介したいのよ」
「それ誰?」「誰だー?」「お前知ってるか?」
「高麗時代の英雄よ」
「何した人?」
「今からちょうど千年前くらいの1018年に高麗に侵入した契丹軍を打ち負かした人よ」
「どんな風にして勝ったの?」
「牛の皮を利用して水攻めにしたのよ」
「へえー、頭いいなあ」
「そうね、カン・ガムチャンは科挙にトップ合格したくらい頭が良かったのよ」
「ふーん。その人かっこよかった?」
「それが、背が低くて不細工だったらしいわ」
「えー!がっかり。ヒーローはイケメンって決まってるのに」
「元々はハンサムだったらしいんだけど、天然痘の神様を呼んで醜男にしたんですって」
「へえー、変わってるなあ」「何でそんなことしたの?」
「その頃、ハンサムは出世しないと言われていたのよ」
「カン・ガムチャン将軍は何処で生まれたの?」
「落星岱(ナクソンデ)よ。生まれた時、星が家に入ったから、そう呼ぶようになったのよ」
「えー?そんなの信じられない」
「他にもいろいろ伝説があるわ」
「どんな伝説?」
「高麗時代、漢陽(ハニャン)に虎がたくさん居て人々を脅かしていたの」
「それで、どうしたの?」
「僧に化けていた虎を叱り付けて仲間と一緒に去らせたのよ」
「他にはどんな話があるの?」
「婚礼に招待された時、人間離れしたハンサムな新郎を怪しいと思ったの」
「それで、それで」
「夜、花嫁と二人っきりになるのを待って襲ったのよ」
「えー!それでどうなったの?」
「新郎が猪の正体を現したのでカン・ガムチャンが矢で射殺したのよ」
「何で、猪だって分かったの?」
「新郎が婚礼で出された肉料理に眉をしかめたり、影に尻尾が見えたからよ」
「その場で殺せばよかったのに」
「そうね。婚礼の席だと人々が大勢いたからじゃないかしら」
「ふーん」
「とにかく、韓国の三大英雄の一人だから覚えておいてね」
「はーい!」
「ところで、ガムちゃんは?」
「はーい!よく噛んで食べまーす!」
2011年11月19日土曜日
とある休日6 by やぐちけいこ
いったい何があった?いつものように訪れた霞の部屋。
インターフォンを押しても出てくる様子が無い。
今まではどんな状態でも不機嫌な顔をして出てくれていたのに。
嫌な予感がして、一度携帯に連絡を入れてみるが出る様子は無い。
緊急のために合鍵はあるがあまり使いたくない。しかし今はそうも言っていられない気がして合鍵を使い部屋に入った。
ソファでぐったりとしている霞を見つけ最初は寝ているのかと思ったが、呼吸は浅く泣いた後もある。
「どうしたの?気分でも悪いの?」と声をかけるが反応が無い。
とりあえずベッドまで運んで寝かせる。親父に連絡を入れるとすぐに診察に来てくれるという。彼女はまた元に戻ってしまうのだろうか?やっとほころび始めた心がまた閉じてしまうのではないかと恐怖に震える。いったい彼女に何があった?
ベッドに運ぶ時、か細い声で聞いてきた内容が気になる。久しぶりに自分の名前を呼ばれたのにうわ言の様なか細い声。
そう言えば今日は診察日。なら病院の方に顔を出したはず。
ピンポ~ン♪と軽快なインターフォンが鳴った。出ると往診セットを持った親父だった。
親父は軽く頷き霞の眠る寝室へと消えた。俺はソファに座り診察が終わるのを待った。
「どうやら何かショックを受けたようだな。自己に引き籠っている。しばらく優秀な看護師に一緒に住んでもらうよ。当分の間、お前はここに来るな」そう言われて黙って引き下がれない。
「何で?俺だってここで霞の様子を見ていたい」そう訴えるが許可は出なかった。
「ベッドに運ぶ時に霞が言ったんだ。薫は私を監視するために傍に居てくれたのか?って。どこからそんな発想するのか分からない」
「そうか。きっとどこかでそれを感じ取ったのかもしれないな。私の所へも来なかったので心配はしていたんだ」
「どこかってどこだよ。診察日なら病院に行ったはずだ。なら病院しかないじゃないか」そこまで言うと思い当たる事があったので俺は親父をそのままにナースステーションに走った。看護師たちが挨拶をしてくるが一切無視し「今日、ここに霞が来なかったか知りたいんだけど」と言うと来なかったと言う。
ただ廊下ですれ違った看護師もいた。ということは診察のためにここに来たけれどナースステーションに顔を出す前に何かを聞いたか見たかしたんだ。
考え事をしていると独りのナースが「今度親睦会をする予定なんですけど薫さんも参加されませんか?」と誘ってきた。
「う~ん、今はそんな気になれないから無理だね。今度霞と一緒にお邪魔するよ」と断ったのだがなかなか解放してくれない。
「薫さんが来てくれると盛り上がるし、霞さん抜きでお願いしたいです。監視役も大変でしょ?」と上目づかいで誘いを掛けてくるが最後の言葉に怒りがこみ上げる。
「監視役ねえ。俺は一度もそんなこと思った事が無いけれど傍から見たらそう見える訳か。なるほど。これからはそう見えないように気をつける事にする」よっぽど怖い顔をしていたのか誘ってきたナースは顔色を変えた。
ここで何かを聞いたのだろう。もう用は済んだとばかりに彼女達に背を向けて霞の家に向かった。部屋に入ると親父は居なくなっており代わりに母親が来ていた。
優秀な看護師か。
「しばらく霞ちゃんと暮らすわね。あなたもそのつもりでいて頂戴。お父さんに聞いていると思うけど霞ちゃんが私に話をしてくれるまであなたはここへ来ちゃだめよ。大丈夫。すぐに元の霞ちゃんに戻るわ」心強い言葉だ。
霞がこうなった原因らしき事柄を母親に話した。
「そう。きっとあなたに裏切られた気持ちになったんでしょうね。可哀想に」
それだけ頼りにされていたのね、と付け加えられた。
いつも追い返そうとする瞳の奥は寂しげだった。だから強引にこの部屋に入って話をして帰った。素直じゃない霞。強がってばかりで頼る事をしない霞。独りで懸命に生きてきた霞。きつい言葉を言ってくるのに本音はいつも隠していた霞。もっと信用してくれているかと思っていた。俺より付き合いの薄い奴の言葉を信じた霞。早く戻ってこい。いつまでも待たすんじゃねえよ。仕方なく霞の家を後にした。
2011年11月12日土曜日
三題話で詠む by 綾小路文磨
編集部より出された3つのお題を使って作品をつくる「三題話」に、週刊「ドリームライブラリ」の執筆陣達が挑戦しました。今回のお題は「まつたけ、化粧、虫」。一見なんの脈絡もないこれらの単語を全て折り込んで、エッセイ、小説、落語などの作品を作り上げていきます。今回は、綾小路文磨さんの川柳をお楽しみください。
2011年11月4日金曜日
バイバイ、ママ by k.m.joe
編集部より出された3つのお題を使って作品をつくる「三題話」に、週刊「ドリームライブラリ」の執筆陣達が挑戦しました。今回のお題は「まつたけ、化粧、虫」。一見なんの脈絡もないこれらの単語を全て折り込んで、エッセイ、小説、落語などの作品を作り上げていきます。今回は、k.m.Joeさんの小説をお楽しみください。
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押し入れに居るのは、最初のうちは暗くて怖かったけど、アイツに殴られたり蹴られたりする事を考えたら、だんだん平気になってきた。
押し入れでは、昔のママの事とか、おいしいお菓子の事とか、いろいろ考えてたけど、この頃は何も考えなくなった。
特にその日はボーッとしていた。部屋から聞こえるママとアイツの話し声や笑い声も気にならなかった。
ジゾーは、突然、話し掛けてきた。「ケンタロウくん、ケンタロウくん」
周りをキョロキョロすると、真っ暗なのに、足元に虫が一匹見えた。小さな虫だけど、ネズミ色で、お腹が赤いのがハッキリわかった。
虫は、昔テレビで見た、蛇使いのオジサンが動かす蛇みたいに、首をユラユラさせていた。「ボクが見えてるね、ケンタロウくん。ボクの名前はジゾー。キミと友達になりに来たんだ。あっ、ボクと喋る時は頭の中で考えるだけでいいよ」
「どうして虫なのに喋れるの?」
「ボクは虫の形をしているだけで、本当は違うのさ。ところでケンタロウくん、キミを助けたいんだ。アイツを何とかしたいんだろ?」
「うん」
「ママも?」「うん」・・・アイツが来てから、ママは変わった。
ママが近所のマルカツで働いてた頃は楽しかった。お店のオバチャンたちも優しかった。ママもよく笑って、ボクの事を可愛いがってくれた。その頃のママはお化粧をほとんどしてなかった。
ある日ママは、別の人みたいに化粧して「今日から夜働くから大人しく寝ててね」と、変なニオイをさせながらボクに言った。
ママと晩ご飯を食べた後、ボクはひとりになった。とても淋しかった。ママが帰って来た時寝たふりをしていたけど、本当はママに甘えたかった。ママはいつもお酒のニオイをさせて、少しよろけながら帰って来た。家でもビールを飲みながら、よくケータイをしていた。メールが多かったけど、たまに電話をしていた。そんな時のママは変な声で喋っていて、ボクは嫌いだった。
ママが遠くに行ってしまったようで、とても悲しかった。声を出さないようにして泣いた事もある。
昔のママはボクと話をする時、ボクの両肩に手をやり顔を見ながら話してくれた。夜のお店に行くようになってからは、ボクの顔をまともに見てくれなかった。
ママは、アイツが来てから、もっと遠くにいる人のようになった。アイツは初めて来た時から、ボクの事を「クソガキ」としか呼ばず、すぐ叩いたり蹴ったりして、最後は押し入れに閉じ込めた。ボクはママを見るんだけど、ママはボクの方を向いてもくれなかった。ボクは泣きもせず、暴れもせず、アイツの好きなようにさせていた。
「全部知ってるよ、ケンタロウくん」ジゾーは言った。ジゾーの声は校長先生みたいに安心できた。彼がボクを助けてくれるとは思えなかったけど、仲良くはなれそうだと思った。
「ケンタロウくんは松茸って知ってるかい?」
「聞いた事はあるよ」
「もうすぐアイツの知り合いが松茸に似たキノコを持ってくる。でもそれは毒キノコだ。たくさん食べると死んでしまうんだよ」
「何で分かるの?」
「ボクが考えた事だからさ」
ボクはジゾーを見つめた。彼も頭の先をボクの方に向けてじっとしていた。
ジゾーの言う通り、誰かが松茸のニセモノを持って来て、暫くすると押し入れまで良いニオイがしてきた。
突然押し入れが開き、アイツがボクを引きずり出した。「おい!クソガキ!うまい物食わせてやる」
テーブルの向こうではママが缶ビール片手に、キノコを食べていた。ボクの前にもキノコの載った皿が置かれていた。引き裂かれて少し湯気が立っていた。ニオイを嗅いだらお腹が鳴った。
でも食べたら死ぬんだと思うと、ボクは動けなかった。
「大丈夫だよ。ボクが刺すと毒にはやられないんだ。ちょっと痛いけどガマンして」
首の後ろがチクッとした。でも、それが合図みたいになってボクは突然キノコを食べ始めた。とても美味しかった。半分ぐらい食べると少し落ち着いた。すると、これがママとの最後の食事かと思うと箸が止まった。
ママは楽しそうにビールを飲みキノコを食べていた。
「どうする、ケンタロウくん。今ならまだ間に合うよ。ママだけでも刺してあげようか?」ボクは首を横に振った。「刺さなくていいよ、もう」そう言うと、ボクはずっとママを見続けた。
次の日、ママは死んだ。
あけぼの園という所から、長谷川さんというオジサンが来て、ボクを連れて行った。優しいオジサンだった。ボクはそこから新しい学校へ通う事になった。
学校でも、あけぼの園でも、皆仲良くしてくれた。たぶん、ジゾーの力だろうと思う。ジゾーはずっとボクの肩についていた。
ある日、あけぼの園の前で長谷川さんが待っていた。いつもと同じようにニコニコしていた。
「ケンタロウくん、君に会いたがっている人がいるんだ」長谷川さんについて廊下を歩いていると、ジゾーが話しかけてきた。
「今から会う人が君の新しいママだよ。ケンタロウくん、ボクもここでお別れだ」
ジゾーがいなくなったのが判った。ボクはジゾーに「さようなら」と言った。でも「ありがとう」はなぜか言えなかった。
自分でもよく判らないんだ。なんでそう思うのか判らないんだけど、ボクはママが死んだ日から、あの暗い押し入れに戻ったような気がするんだ。
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