編集部より出された3つのお題を使って作品をつくる「三題話」に、週刊「ドリームライブラリ」の執筆陣達が挑戦しました。今回のお題は「まつたけ、化粧、虫」。一見なんの脈絡もないこれらの単語を全て折り込んで、エッセイ、小説、落語などの作品を作り上げていきます。今回は、やぐちけいこさんの小説をお楽しみください。
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季節は新緑が似合う時期を過ぎ、木々が赤や黄色と自己主張をし始めた頃のお話。
山のどこかで松の木母さんの声が聞こえた。
「さあ、坊やたち。これからかくれんぼを始めるよ!頭は絶対出しちゃだめ。頭を隠したい子は落ち葉を頭にかぶせときな。ほら足音がそこまで来ている。大人しくするんだよ」
カサカサと足音と共に今年も松茸を探しに人間がやってきた。
子ども達はわくわくと身を潜める。
毎年同じお爺さんが腰を曲げながら松茸を探しにやってくる。本当に必要な分だけ捕っていく。そして松の木を見上げいつも声を掛けてくれるのだ。
「松の木よ、今年も豊作かい?お前の周りには毎年たくさんの松茸があるから助かるよ」
それに応えるように風が松の葉をザザーッと揺らす。
「どれ、この辺りかな」と一つ松茸を籠に入れる。「わあ、見つかっちゃったあ」楽しそうに籠の中で騒ぐ。子ども達が籠の中でぎゅうぎゅうと身動きできなくなる頃、お爺さんは痛む腰をトントンと叩き帰り支度をする。
「松の木よ、今年はこれだけ頂いて行くよ。また来年も頼むよ」そう言いながら松の木を軽くポンポンと叩き山を下りていく。
昔松の木はこのお爺さんに傷ついた枝を治療して貰った事があった。その翌年からこのお爺さんにだけ松茸を分けているのだ。可愛いわが子をこの人になら渡せると思いながら。
根元にいる虫達は「今年の秋もそろそろ終わりだね」などと冬支度に忙しい。
もうすぐ冬がやって来る。お爺さんが歩いた山肌には雪化粧。一面真っ白になるだろう。季節は巡りやがて春になり眩しい日差しの夏を迎える。着々と時は過ぎまたかくれんぼの秋がやって来る。
きっとお爺さんはまた話しかけてくれるだろう。
「松の木よ、今年も豊作かい?」
「また来年も頼むよ」と。
はい、来年も再来年もあなたが来て話しかけてくれるならお待ちしています。子ども達とかくれんぼをしながら。
そう季節の風に乗せた。
可愛いお話でした。そのまま、絵本になりそうです。
返信削除恵子さん、ほのぼのとしてるお話よねえ。この話の続編があっても面白いかもしれないわよ。
返信削除ある年、優しいおじいさん以外の人が松茸林を見つけて、松茸を乱獲するの。怒った松の木母さんは・・・、なんてね。
何だか心がほんわかと暖かくなりました。
返信削除すごく自然なのに考え抜かれた詩のようにも感じました。
これもまた、忘れられない作品になりそうです。
>mirubaさん
返信削除感想ありがとうございます。
読んで頂いた方の数だけ心の中に絵本が出来たらうれしいです。
>raitoさん
続編があったら、とその先を楽しみにして頂けるのはうれしいです。
実はこの場所は他の人からは見えなくて…という裏の設定なんかもあったりで。
それをもろともせず乱獲という輩が出てきたら物語がどんどん発展しそうですね。
私には無理そうですが(笑)。
>御美子さん
自分の書いた作品がどんな形でも良いから読んだ人の栄養なり印象に残れば良いなあといつも思っています。
少しはそれが出来たでしょうか。
頭の中には絵本が出来上がってますね。
返信削除「そらまめくん」シリーズの絵で。
ほんわかなお話には、ほんわかなイラストで。
>かさん
返信削除感想ありがとうございます。
ほんわかな絵は好きです。
パステル調とか絵具を少しにじませた感じとか。
そらまめくんのマツタケ版を見てみたいですね。