「お母さん。どうしてお母さんの体は真っ白じゃないの」
白クマの子どもは白地に黒い模様の付いている母親に尋ねた。それは、生まれて初めて
感じた疑問だった。
「みんな、おとなになると模様がついてくるのですよ」
「どうして。ねえ、どうして」
子グマには、それが何故だかわからなかった。
「ほら、あのアザラシさんを見てごらんなさい。やっぱり、子どもは真っ白だけど、ママさんアザラシは模様がついているでしょう」
「ほんとだ。点々模様がついているわね」
二人が見たのは、ごまふアザラシ。確かに子どもは真っ白で、おとなにはゴマ模様がついている。
「そうか。真っ白じゃなくなるのが、大人になる証しなのね」
「ふっふっふ。そうね。みんな、おとなになるときに、模様がついていくのかもしれないわね」
「私は、どんな模様がつくのかしら。お母さんと同じ、白地に黒い模様かしら」
子グマの無邪気な質問に、母親の表情は一瞬くもったが、すぐにいつもの優しいお母さんの顔に戻った。
「さあ、どうかしらね。あなたは心のやさしい子だから、ひょっとしたらおとなになっても、色がつかないかもしれませんね」
「いやだ。そんなの私いや。お母さんと同じ模様がいい」
子グマは少し悲しくなった。泣きそうになった。でも、お母さんの顔を見て、泣くのをがまんした。だって、お母さんこそ、泣きそうな顔をしていたんだから。
「だいじょうぶよ。きっと、だいじょうぶ」
「そうよね。きっと、だいじょうぶよね」
子グマには何がだいじょうぶかはわからなかったが、悲しそうな母親の顔を見てしまうと、そう答えざるをえなかった。
あれから5年の月日が流れ、白クマは立派に成長していた。お母さんはもういなかったが、今では自分がお母さんである。竹やぶでさまよっていた赤ちゃんを、自分の子のように可愛がって育てているのだ。その子が、ある日初めてお母さんに質問をした。
「お母さん。どうしてお母さんの体は白地に黒い模様がついていないの」
それは、子パンダが初めて感じた疑問だった…
<あとがき>
この物語を書くきっかけを与えてくれたのは、白クマの物語を書き始めたやぐちけいこさんです。白クマさんの恋物語(あーなったり、こーなったりするやつ)を書いて欲しいとのことでしたが(どこで)、それはさすがにあれだったので(どれ)、私はショートショートしか書けませんので、ショートショート仕立ての童話風に仕上げてみました。アイデアは、けいこさんの作品にコメントしている時に浮かんだものです。楽しんでいただけましたでしょうか?
パンダに育てられた白クマが今度はパンダを
返信削除育ててるんですね。
これを読んで思い出したのが種族を超えて子育てをする
野生動物の話です。
「みんな違ってみんな良い」
そんな言葉まで思い浮かびました(^^)
矢口恵子さん
返信削除コメントありがとうございます。
やっぱり、私には白クマさんのあーなったりこーなったり物語は書けませんでした^^