娘の松子は娘の桐子を大学に入れ、離婚騒動も納まり、仕事休みの楽しみだった買い物にも出るようになった。
テレビでは相変わらず不倫騒動の文秋砲が炸裂している。
そこに着物姿のモミジがお茶を持って来て、猪之吉の横に置き、
「有名人はすぐ騒がれて、ドジなのね」
と、吐き捨てるように言うと、猪之吉が、
「桐子の受験で松子が付き添って行き、その後すぐだったな。離婚騒動があったのは、松子はさ、夫婦の問題だからもう言わないでとか言うから、事情を深くは聞かなかったが、本当は、何があったんだい」
と、気になっていた事をモミジに聞いた。が、モミジはテレビをじっと見つめている。
そこに松子が買い物から戻ったのか、玄関で声がし、台所でも音がして、やがて老親の居る居間に来ると、
「又なの、文秋砲。有名人ってホント損ね」
と言い捨て、軽い笑みで松子が、
「有名人じゃなくてよかった」
と、一こと言って鼻から笑みを漏らした。