2016年6月3日金曜日

--essay-- 三度目の正直 by Miruba

日々の事に追われ、気がついたら皐月の花が散りかけている。
五月晴れの数日が過ぎると梅雨かと思わせる連続した雨が新緑の香りと共に傘の上に落ちてくる。

忙しいとはいっても、日々の暮らしはそれなりに過ぎて、たまにはダンスパーティに出かけたりもするし、合間に映画を見たりもする。忙中閑ありだ。
もっとも、空く時間は気まぐれなので友人との約束などめったに出来やしない。

先日あるパーティーにいつもどおり1人で行こうと思ったが、知り合いのカップルに現地集合しないかと聞いてみたら_あなたが行くなら付き合うわ_との嬉しい言葉だった。
急な誘いにもかかわらず二つ返事で承諾とは、持つべきものは友達だと思ったしだい。

友人のお相手は近頃一緒に暮らし始めた素敵なロマンスグレーだ。
ダンスという同じ趣味を持ち、半年ほど前からコンペなどにも参加しているという。


会場まで同乗させて貰った車の後部座席からこのところすっかり若々しくなった助手席の友人の横顔をていた。


彼女はシングルマザーだった。
2人の子供を大学に出し、その娘達も良い伴侶を見つけて独立したころ、長い独り身に別れを告げ中学生のときの同級生と二度目の結婚をした。
1人で暮らすのは将来不安だから、と言う理由だった。

ところが飲み友達のときは気が合って楽しかったようだが、お互い自分の会社を持ち、長い間シングルで過ごしてきた二人は、気ままが長すぎた。

「ちょっと聞いてよ。週末に私のマンションに泊まりに来るんだけれど、自分はソファーでゴロゴロするくせに、持ってきた一週間分の汚れ物の洗濯を全部私にさせるのよ!私だって疲れているし週末はゆっくりしたいわ」私とカフェで会う度に愚痴を言うようになる。

「<奥さん>と言うのは家庭ではそういうものよ」といったところで納得せず、一年目に週末夫婦は離婚をした。


落ち込んでいる友人をダンスの世界に引っ張り込んだのは私だった。
年月が過ぎ、すっかりダンスにはまり込んだ彼女は、ダンスの相性の良い人を探し求めるパーティーダンサーになった。

そんな時あるダンスパーティーでいまのロマンスグレーの彼と再会したのだという。

二人が最初に知り合ったのはもう40年も前のこと。
まだ20代前半の若かった彼女が子供二人を連れて離婚し、子連れで仲間達と遊んでいるところにそのロマンスグレーも仲間の1人として遊びに参加して居たというのだ。
もちろんその頃はただの仲間の中の1人で、素敵な青年だったのだろうが。

「ちょっと聞いてよ!子供達の小さい頃の写真を見ていたらね、若かったこの人が娘達と遊んでいる写真があったのよ、もうびっくり」
彼女は、その細い赤い糸に手繰り寄せられた二人の縁(えにし)を感じて嬉しそうだった。
ロマンスグレーも、彼女の横でニコニコして聞いている。
只気が合うというだけでは、上手くいかない男女の仲。
自立した踊りをしながらお互いが支えあい補って表現する社交ダンスが、お互いへの信頼と尊敬を生み普段の関係にも良い影響を与えているのだろう。

自由気ままな彼女がふとした仕草などで甲斐甲斐しさを見せる様子は、愛おしさすら感じられる。



今度こそは大丈夫かな。
3度目の正直っていうものね。
ダンス談義に花を咲かせながら、笑顔の二人に私も嬉しくて顔がほこんでしまうのだ。

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