2012年11月3日土曜日

怪異万華鏡5 by 暁焰

くび球

Tさんが小学校高学年の時に見たものの話である。

それは、小学校の体育の時間の事だった。
その日の授業は、秋の運動会が近いこともあって、クラス全員の50m走のタイムを計っていた。
一人ずつ、出席番号の順に、タイムを計るのだが、自分の番が来るまで他の生徒たちは、スタート地点の脇に整列して、座って待っていることになっていた。
Tさんの順番はかなり後の方で、自分の番が来るまで、周りにいる友達と、たわいもない話をしていた。
と、グラウンドの隅にある砂場を見ると、妙なものが目にはいった。
黒いボールのようなものが、砂場の近くに落ちている。
ボールは風にあわせて転がっているようで、あちら、こちら、ところころと転がっていた。
Tさんの座っている所から、砂場までは10メートルほどだろうか。最初は汚れたサッカーボールかと思ったのだが、よく見ると、細い枯れ草のようなものがいくつも纏わりついているように見えた。
(あれ?なんやろ?ボールちゃうんかな?)
不思議に思ったTさんが、すぐ隣の友達に教えようとした時、一際、強い風が吹いて、ボールが、砂場へと転がりこんだ。
次の瞬間。
「うぇーっ!ぺっぺっ!」
ボールが、大きな声を出しながら、半回転した。
Tさんだけでなく、クラスの何人かがそちらを見るほどの、大きな声だった。
半回転したボールの裏側には、人の目鼻と口がついていて、細い枯れ草が纏わりついているように見えたのは、頭から生えた長く、もつれた髪だった。
砂場を転がった時に、砂が口に入ったのだろうか、首は顔をゆがませて、砂場の真ん中でぺっぺっ、とつばを吐くような声を上げていた。
「なんや、あれ!」
Tさんの隣に座っていた男の子があげた声に、先生も含めたクラス全員がそちらを見たその時、首が再び半回転して、後ろを向いた。そして、そのまま黒いボールのような——おそらく後頭部?——見た目で、ころころと転がり、近くの草むらへと消えていった。
Tさんを含め、目撃した生徒たちの話を聞いた先生が、草むらの中を見に行ってくれた。「お前らが見たんはこれやろ?」
先生が草むらから手にして戻ってきたのは、古いボールだった。元は、サッカーボールか、バスケットボールか、表面の皮かゴムがほつれて、繊維の塊が飛び出していた。
そんなことはない、あれは人の首だった、声も聞こえた、とTさん達がいくら訴えても、先生はおろか、クラスメイトにも信じてもらえず、結局、古いボールを見間違えた、ということで落ち着いた。
「そやけど、見間違いでも、ボールはしゃべりませんよねえ。それともボールが化けたんですかねえ?」
と、Tさんは笑う。
「髪は長かったけど、おっさんみたいな声で、ぺっぺって、砂吐いてました」
しばらくの間、同じものを見たクラスメイト達のあいだでは、ボールのお化けや、いや、おっさんのお化けや、お化けやけど、砂が口に入るのは嫌みたいや、と妙な話題が持ちきりだったという。

2 件のコメント:

  1. こちらは子供達の最後のやりとりに
    ちょっと笑ってしまう余裕があり
    一息つかせていただいたようでホッとしました。
    でも、よく考えたらちょっとぞっとしますね。^^

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  2. 暁焔1/31/2013

    御美子さま

    こちらにもコメント頂き、ありがとうございます。
    たまにはユーモラスな怪異の話も…と思い立ちまして。
    端休め的に楽しんで頂けたなら、幸いです^^

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