二十二歳で未婚の成美は、
「産むのは女でも、育てるのは男か、産むも育ても女か、共同?」
と思って、理想は共同だと思ったが、そんな単純なわけがない、結婚しても離婚があるのだからと、自己否定をした。
それでも成美は、友達の中で結婚の話が出ると、結婚がなぜめでたいのか、なぜ結婚をする男女を祝福するのか、それを知りたかった。
成美としては、めでたくないとか、祝福したくないというわけではなく、何がめでたく、何を祝福するのかを知りたかっただけだった。
初めの頃、結婚とは合法的売春、子造許可証とか子造練習をしたいだけとか、セックスライセンス、そんな気がしていた。
女は視線を感じただけで、セクシャル・ハラスメントだと騒げる本能的性感はあるが、成美は自分が化粧する事は逆ハラスメントかも、そう思う時すらあった。現に兄の会社で、
「イメチェンしたね」
と、女性社員の髪型を言っただけで、ハラスメントだと言われ、兄は、
「女性の気分次第で、どうにでもなってしまう」
と、こぼして困惑していた。
成美は兄のそんな話を聞いて、不意に高校の生物の先生の話を思いだした。
―― すべての生物は、その種で宇宙征服を望んでいる ――
だった。その生物は意思を持ってそうするのかはともかく、本能だろうくらいは理解でき、人間もか? と成美は思った。
もしそうなら、結婚とは種の保存行為への儀式という事になり、確かにめでたい気がし、祝福の言葉も無限にあるように思えた。
某官僚の話も話題になり、
「あれは暴言だな」
と、兄も言って、
「女性の容姿やメイクを褒めるとセクシャル・ハラスメントだなんて、トラップじゃないか」
と、兄は嘆いた。
「大丈夫よ、お兄ちゃんにトラップ掛ける人いないから」
「どうして?」
「お兄ちゃんは、お金も力も、無いから」
と、成美は言って、“無いから”に力が入ったなと、浅ましさを感じた。
―― 了 ――