2018年12月7日金曜日

秋の日々に4<パリの検診> by Miruba

 市からの乳がん検診の通達が来た。
 もたもたしているうちに日本に戻る事になった。義兄が具合悪いのだ。看病をしに行った主人が(すでに3週間になるが)抜けられない予約の仕事が入っているために、私が交代をして、リハビリの病院に移るまで付き添いをしてあげなくてはならないのだ。
 何故すぐに検診に行かなかったかというと、メドゥサントレタン(主治医)が、年を取って引退してしまったからなのだ。息子さんも医者だと言っていたが、大きな県の病院に勤めていて、後は継げないと言われたらしい。
 乳がん検診は婦人科を受診、次にその処方箋を持って検診だけを行うラボラトワールというところに行くのだが、まずドクター・ジュネラル(内科医)主治医に内診を受け、紹介状を書いてもらってからでないと、婦人科の予約受診ができない。いや、できないことはないのだが、「主治医の先生は?」と必ず聞かれ、「紹介状がないと高額になりますよ」「なんで主治医がいないの?」とネチネチ^^; 言われる。早く主治医を探さねばと思うが、初めての医者を探すのは苦労する。
 日本と同様、フランスでも医療過疎地での引退する医者の後継者がおらず、また過酷な生活のわりに給料が見合わないという事で救急医も不足、医者離れを起こし、昨年から7000人も医者の数が減っているのだという。
 なのに、医学部一年目の共通課程修了時の試験でなんと8割の学生を振るい落としているとか。この悪名高き「定員制限」の廃止が2020年に行われると発表されたが、来年からやればいいのに。ただ、基礎知識も満足でない学生を簡単に上の学年にあげるわけにもいかないという大学側の気持ちも理解はできるが。

 廃業したクリニック。レントゲンやがん検診、婦人科もあり次女を出産した入院可能な総合病院だった。郊外になるこの地区でも、高齢や後継者不足を理由に廃業する医者が多い。

公園で知人家族に会った。(画像の家族は記載内容とは無関係)
 子供は二人、かわいい女の子と男の子だ。この子たちは、いわゆる婚外子になる。知人たちは、日本でも夏木マリが発言したことで知られるPACS(パクス婚)だからだ。
*パクス<民事連帯契約>:1999年にフランスの民法で定められ「同性または異性の成人2名による、共同生活を結ぶために締結される契約で、安定した共同生活を送るため、契約者同士は住居、財産、税金、社会保障上で結婚しているのとほぼ変わらない権利を有し、また義務を負う。ただし、片方がすでに親の場合、その親子関係や親権に影響を及ぼすことはできない」

 契約の解消は、両者またはどちらか片方が簡易裁判所に申請するだけで済む。正式に結婚したカップルが離婚する場合、必ず弁護士を雇い、(高い)裁判での調停を行い、数年かかることもあリ、面倒と。決定的違いはそこにある。
 最初、PACS法は同性愛者のために作られたのだが、現在はそのほとんどが異性間のもので、それに伴い、婚外子の数はうなぎのぼりで、なんと、婚外子出産は59.7%。10人中6人は両親が正式な結婚をしていないのだ。(ちなみに日本は2,3%のみ、スウェーデンはフランスも負ける69%だそうな!)
 これで出生率が上がったって喜んでいるらしいが、何か違う気がする。もっとも、知人家族は幸せそうだから、それはそれでいいのかも。

 主治医を紹介してもらったので、ちょっと出かけた。凱旋門も秋の景色。

 毎日天気が良くて、パリらしからぬ天気が続いている。いつもならこの時期どんよりとして、日本の秋の長雨のごとく、毎日のように小雨が降るものだが……これも温暖化のせいだろうか。

 カフェでひとやすみ。秋の夕暮れは早い。

2018年11月29日木曜日

秋の日々に3<パリのスケッチ> by Miruba

 散歩しながら気に留めた場所を描いてみる。タブレットの中の写真を見て仕上げる。
 パンテオンドームの下は地下墓地になっていて、フランスの偉人たち、キュリー夫妻やヴィクトール・ユゴー、点字のルイ・ブライユ、ミラボーなどが眠る霊廟である。サンジュヌヴィエーヴ教会とも呼ばれる。


街の裏通り ・ モンマルトルの丘の裏通り


サクレクールバジリカ(聖堂)・テルトル広場裏通り


郊外。建物が傾いているような…… 



 ムーランルージュ辺り。ムーランルージュは、フレンチカンカンで有名なナイトクラブ。ベルエポックの華やかさが今も息づいている。できれば一回は観たほうがいいと思う。選ばれたダンサーたちの素晴らしい踊りを堪能できる。



13区ビュット・オ・カイユの裏通り


秋の午後、パレ・ロワイヤルの中庭 


 今日は今日しかないし、今は今しかない。秋の日々を楽しむことは、贅沢な時間のような気がする。






2018年11月22日木曜日

秋の日々に2<モントルイユの蚤の市>by Miruba 

 長女から、フランス語の本が欲しいので日本に帰国するときに持ってきてほしいと頼まれた。日本人ではあり、日本を気に入って住んでいるとはいえ、生まれ育ったのはフランス。長く日本にいると、やはりフランス語に飢えてくるのだろう。生まれてくる赤ちゃん用に長女が子供の時に読んでいた絵本や、日本では手に入らないコーンフレークも用意する。

 その買い物ついでにモントルイユの蚤の市に行ってみた。泥棒市と言われるくらい、アラブ系の人たちがどこからか持ってきたようなものばかりを売っていたので、この10年くらい足を向けていなかったのだ。
 久しぶりに行ってみると、テント張りの屋台列はそのほとんどが普通の洋服や雑貨の安売り商店街になっていた。「蚤の市でも何でもないなぁ」と思って歩いていると、所々に中古の(骨董風の)物を置いてある店がある。
 フランス人の店主の持っているものはさすがに名のある^^ 骨董品で、みな高い。値切ってもなかなか安くならなかった。指貫をいくつか買った。珍しいのは小指に入れる指貫。ドイツという刻印のある上下の空いた指貫は古そうだった。指貫収集に花を添えてくれる。「マダムは日本人? 私日本に行ったことがある。いいところね。いいものがあるのよ。このボタンはいかが?」奥から出して見せてくれたのは昔のドレスにつけるボタン。16世紀の物だという……(嘘っぽい^^)でも歴史抜きでもとても珍しいので買っちゃった~。

 帰ろうかと思ったら、奥まったところでアラブのおじさんが半分壊れたようなものなど雑然と物を置いていたので覗いた。
  小物入れがぐちゃぐちゃ置いてあるガラスの割れたショーケース内に、WEDGEWOOD(ウェッジウッド)のジャスパー*の陶器が付いたステンの小物入れがあったのだ! 少し傷はあるが状態は良い、ジャスパーの絵柄もいい。「いくら?」と言うと「そこにいある小物入れは、みんな5€(約630円)」と答えるではないか! おじさん価値知らないのか?やったぁ~^^v 嬉しさは顔に出さないで、5ユーロ札を急いでおじさんに渡し、手提げにしまった。これこそ掘り出し物よね。
(*ジャスパー:創業者のジョサイア・ウェッジウッドが宝石のような焼き物をつくろうと、4~5年の歳月をかけて完成させた釉薬のかかっていないストーンウエア)

 午後は友人とカフェで待ち合わせ。時間があったので、カフェまでの道を散歩しながらたどってみる。
 キャトルセプタンブル駅、私がいつも利用する駅(写真左)。9月4日駅という意味で、第三共和政が成立した日を記念してつけられた名前、転じてナポレオン3世が失脚した日ともいえる。右は、NICOLAS(ニコラ)というワイン専門店。
 

 このパッサージュ(屋根付き歩道商店街)は、大昔、高田賢三や 森英恵がブティックを持っていたファッションのパッサージュだったことで知られたが、今は昔、現在は韓国や中国のファストフード店街になっている。でも、ここには画材屋があるので、気に入っている。

 パレ・ロワイヤル。この館は1624年首相だったリシュリューの物だったが後にルイ13世に寄贈した。ルーブル宮を嫌ったルイ13世の妻アンヌがその後太陽王と呼ばれた幼いルイ14世を伴って住んだことから、パレ・ロワイヤル(王宮)、と呼ばれたのだ。パレ・ロワイヤルの中庭(写真右)「人生のフルーチェ」のごとく各椅子の背に色々な著名人の言葉が彫られている。

友人と会ったカフェ。オペラ通りにあるので、その名もカフェロワイヤルオペラ。できてから50年以上になるという。
 友人とはここ数年会っていなかったので、ちょっと驚いた。「リタイアしてから全然外に出ないのよ」という彼女はその昔は凛とした美人でフランス人の中でバリバリ仕事をしていたキャリアウーマンだったのだ。あまりの風貌の変化に、病気か? と思ったら、お加減が悪かったのはご主人のほうだった。看病疲れだったのかも。でも話し出すと昔の彼女が戻ってきて、楽しい時間を過ごせた。どうしても、健康の話になってしまうのは、私たちの年齢のお決まりね。
また会おうといって別れた。

 帰りはマンション裏の公園を通った。サッカーを4組ぐらいでプレーをしてもまだ余るくらい広い芝生の公園だ。子供たちといつも来て遊んだものだ。今日も1日が終わった。
そういえば、今日は一日が長かったなぁ。

2018年11月13日火曜日

秋の日々に・1<ホテルリッツのレストラン> by Miruba

 パリの自宅に戻ってから早一か月! いつも思うことだが、月日の経つのは本当に早いもの。なんでも、年を取ると刺激を感じることが少ないので、時間経過を早く感じるのだとか。反対の気もするが、確かに旅行などをしていると、見たことのない物や場所を観るので、知らずに刺激を受けているからか、時間はゆっくり過ぎている気がする。
 10月は誕生月。この年齢になるとめでたくもないが、お祝いをしてもらうとやはり嬉しい。パリに入る前東京の娘夫婦の家に泊まったらケーキが用意されていた。

 ここ数年は旅行中の誕生日が多かったのだが、今回はパリでレストランにお呼ばれ。十数年ぶりのホテルリッツでの食事~。
 オペラ座を正面に見て左の道を行く。ヴァンドーム広場に面したところにホテルリッツがある。オテル・リッツ ( Hôtel Ritz )は、パリの中心部、1区にある壮麗な高級ホテルである。1898年創業、スイスのホテル経営者セザール・リッツと料理人のオーギュスト・エスコフィエの協力のもと設立された。居室に隣接した浴室や電話、電気を各部屋に設置提供したのは、オテル・リッツがヨーロッパで初めてだったという。その贅沢さがまたたくまに評判になり、王侯、政治家、作家、映画スター、歌手等を顧客に迎えることになった。スイートの幾室かに、ココ・シャネルやアーネスト・ヘミングウェイら著名な宿泊客を記念して、名前が付けられている。(Wikipediaより引用)ココ・シャネルもヘミングウェイも何年も滞在したことで知られている。4年にわたる460億円の大改装を経て2017年に再開業した。

 ミシュラン一つ星のレストランと、2つ星のレストランと2軒入っている。2つ星レストランの副シェフは、Mr. Asanoさんという日本人だ。素晴らしいね。

 地下にあるサロンはダイアナさんが最後に食事をしたところだそう。ロートレックの絵がさりげなく掛けてあったりする。
 左はバーテンダーのコリン・ピーター・フィールドさん。政治・経済からカルチャーまでの知見が高い彼が待つカウンターを訪れるゲストは毎夜、後を絶たないとのこと。「ミリオネラの常連も多いけれど、マダムのような美しい方も大勢いらっしゃいますよ」ですって~

 席には、Joyeux Anniversaire「お誕生日おめでとう」とカードが入ったランプが。 ワイン一本でお手ごろな値段で(ハーフボトルなのに)1万円もする~^^ もっとも、私が見るメニューには金額は表示されていません。男性は、ドキドキだろうなぁ^^

 

どの料理も凝っていて美味しい。量も心配するほど多くはなくちょうどよかった。

食前のお楽しみ・アペリティフと一緒に

前菜1 ・ 前菜2

魚 ・ ハト

デザートめちゃくちゃ凝ってた ひも状のチョコレートが束になっていてさらにロールしてある、中にはチョコレートムースが入っている。
 

他にも誕生日のためのケーキも出てきて、とても食べきれなかった~




 数日後、Mr. Asanoをアペリティフ(食前酒ミニホームパーティーのこと)にご招待したが、休日出勤を余儀なくされたとかで、ドタキャン、残念。

 アペリティフの時の用意、これにナッツやチーズを付ける。飲み物はシャンパン、ワイン、ビールやジントニックなどカクテルを提供する。おしゃべりがメインなので、そのまま夕飯に入っちゃうこともある。この日の夕飯用は鶏手羽と栗の甘辛煮を作ってあった。昔は毎週のようにアペリティフミニパーティーで友人たちを呼んだり、また呼ばれたりしたものだ。

 この年になると、お友達たちは、日本に帰ってしまっていたり、こちらの友人たちは亡くなってしまったり、地方に越していったりと、ずいぶんと寂しくなってきた。子供たちがいないので、ママ友との付き合いもなくなったから、余計だ。新しい友人を作るにはなかなか~ 気に入った友人だけで、付き合うには十分。なんて若いころは思ったものだが、友達は多いに越したことはないな。だって、放っておいても、だんだんいなくなるのだからね。

 次の日のお昼は、マッシュポテトとフランクフルトのボイル、ぐっと庶民的だけれど、これがおいしかったりするのよね~。お昼から、残ったワインにグレープフルーツジュースを混ぜて、サングリア風。衛星放送を見ながらのんびりしていると、なんと贅沢な時間かと思ってしまう。前回リッツに来た時からすると、随分と周りが変わってしまった。自分は何も変わっていない気がするけれど。そういえば、シミもしわも増えたかも。ヤダヤダ

 リッツで用意してくれたバラの花、その後2週間も奇麗に咲いてくれた。花からして選別された良いものがつかわれているのね。感心した。別に高級であることがすごいことではないけれど、プライドを持って仕事をするって、そういう事なのかもしれないな、と思った。

2018年9月28日金曜日

モン・ファヴォリ【Mon favori】=私のお気に入り by Miruba

西洋ゆびぬき・木製
「あなたの今の  "お気に入り"  は何ですか?」

 あるアンケートの質問を受けました。
 さて、"お気に入り"  だけでは漠然としすぎていますね。
"お気に入り<の場所>"ですとぐっすり眠れるベットの中、とか、ゴルゴ13を読みながら入るお風呂とか、静かなBARのカウンターとか、飛行機の発着が見えるカフェの窓際とか、絞りきれません。
 "お気に入り<のこと>"でしたらやはり旅行と言えるかも。
 でも、絵を描く事も、文章を書く事もお気に入りですし、今は、映画館もお気に入りになるかしら。映画ではなく映画館です。映画鑑賞ももちろん目的ですが、映画を見ながらポップコーンを食べてビールを飲む、というシチュエーションが癒される時間なので、映画館がお気に入りと言えるのです。
 ダンスもお気に入りの一つですが、見るより踊るほうが好きなので、運動を"お気に入り"の中に入れるのは、どうなのでしょう? いいのかな?
 "お気に入り<の音楽>"となると、ダンス音楽になってしまいますが、ダンス音楽はテンポが決められているのでずっと聞いているとちょっと飽きる。で、やはりジャズかな~題名や演奏者などほとんど覚えない無精者ですが、BGMには最高です。
 飲み物でしたら「ダンスの後のビール」か「カクテル」かな、「リキュール」や「ブランデー」、「ワイン」もいいですよね。「梅酒」も捨てがたいし……となると、お気に入りは「アルコール」ということ? あら、お気に入り<の飲み物>がアルコールでは、依存症? などと思われそうですね。
 着るものへの執着はほとんど無いのですが、いつも着ているマーメードの黒のスカートとハイネックの黒のTシャツをある意味「固執」したように着ているのは傍から見れば「私のお気に入り」に見えるでしょう。要は考えるのが面倒なだけなのですが……昔からずっとその恰好だったわけではないので、お気に入りのスタイルというのも変わりますよね。現に、ヘアスタイルなど今のお気に入りはアップにしてバレッタで留めることですが、若いころはボブスタイルで、一生ボブで通すと思ったものです。でも、年齢が行くと似合わなくなり、髪が薄く毛も細くなって思ったようにスタイルが保てなくなりました。
 食べ物だったらなにかしら。
 今"お気に入り<の食べ物>"は、塩にぎりかな~。肉体労働をしてくる従業員のみんなに、仕事終わりの5時ごろ小腹が空ているだろうと、おにぎりを作り始めて、もう何年になるかしら。もちろん、気の向いた時ですから、2週間に一回くらいですけれど。ま、これが我ながら美味しい。「コメ変えたんか?」「いんやあ 釜変えたんだ」なんてコマーシャルがありましたが、電気釜は新しい方が断然いいです。ご飯の出来具合が全然違いますね。

「今、 "お気に入り"  は何ですか?」
 と質問されたとき、趣味のこと、またはコレクションしていることなども、お気に入りと言っていいかもしれません。私の趣味はダンスと旅行、絵を描く事、ものを書くことと言えますが、あと、指貫(ゆびぬき)の収集も趣味と言えるでしょうか。
 指貫とは、裁縫の時に使う針から指を守る指サックのようなものです。ですが、ヨーロッパではコレクションの対象として、どこに行ってもそこの土地の観光地や建造物などを現した指貫がお土産用として売られているのです。

マリーアントワネット(ヴェルサイユ宮殿で)
ローマ(イタリア)
シャモニーモンブラン(スイスで購入)
 
 ベネチアンガラス製(イタリアムラーノ島で)
国産ガラス製(小樽のガラス工房)
ガラス製(箱根・星の王子様ミュージアムで)

最近、指貫の上に馬やらマリア様像のついた、到底指貫目的ではないといわんばかりの物が多く出てきました。

フランス北オンフルールの牛
チーズを運ぶ女の子・オランダ製 
フランス・モンサンミッシェルの馬
フランス・ランスのマリア様

 私のコレクションはヨーロッパ旅行をした先々で購入したものですので、パリの自宅にほとんどあります。今の"お気に入り"って、この指貫ですね。

 とはいえ、アンケートに「お気に入りは、指貫」と答えても、日本ではわかってはもらえないかもしれませんね。

 あなたの今の"お気に入り"って、なんですか?

指貫の他にも、フェーヴといって、2月のお祝い、アーモンドパイの中に
入っている陶器でできた小物、日本製の陶器の野菜などもあります。

2018年5月18日金曜日

「なぜメデタイの?」 by ショウ

二十二歳で未婚の成美は、
「産むのは女でも、育てるのは男か、産むも育ても女か、共同?」
と思って、理想は共同だと思ったが、そんな単純なわけがない、結婚しても離婚があるのだからと、自己否定をした。
それでも成美は、友達の中で結婚の話が出ると、結婚がなぜめでたいのか、なぜ結婚をする男女を祝福するのか、それを知りたかった。
成美としては、めでたくないとか、祝福したくないというわけではなく、何がめでたく、何を祝福するのかを知りたかっただけだった。
初めの頃、結婚とは合法的売春、子造許可証とか子造練習をしたいだけとか、セックスライセンス、そんな気がしていた。
女は視線を感じただけで、セクシャル・ハラスメントだと騒げる本能的性感はあるが、成美は自分が化粧する事は逆ハラスメントかも、そう思う時すらあった。現に兄の会社で、
「イメチェンしたね」
と、女性社員の髪型を言っただけで、ハラスメントだと言われ、兄は、
「女性の気分次第で、どうにでもなってしまう」
と、こぼして困惑していた。
成美は兄のそんな話を聞いて、不意に高校の生物の先生の話を思いだした。
―― すべての生物は、その種で宇宙征服を望んでいる ――
だった。その生物は意思を持ってそうするのかはともかく、本能だろうくらいは理解でき、人間もか? と成美は思った。
もしそうなら、結婚とは種の保存行為への儀式という事になり、確かにめでたい気がし、祝福の言葉も無限にあるように思えた。
某官僚の話も話題になり、
「あれは暴言だな」
と、兄も言って、
「女性の容姿やメイクを褒めるとセクシャル・ハラスメントだなんて、トラップじゃないか」
と、兄は嘆いた。
「大丈夫よ、お兄ちゃんにトラップ掛ける人いないから」
「どうして?」
「お兄ちゃんは、お金も力も、無いから」
と、成美は言って、“無いから”に力が入ったなと、浅ましさを感じた。

―― 了 ――