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2018年5月18日金曜日

「なぜメデタイの?」 by ショウ

二十二歳で未婚の成美は、
「産むのは女でも、育てるのは男か、産むも育ても女か、共同?」
と思って、理想は共同だと思ったが、そんな単純なわけがない、結婚しても離婚があるのだからと、自己否定をした。
それでも成美は、友達の中で結婚の話が出ると、結婚がなぜめでたいのか、なぜ結婚をする男女を祝福するのか、それを知りたかった。
成美としては、めでたくないとか、祝福したくないというわけではなく、何がめでたく、何を祝福するのかを知りたかっただけだった。
初めの頃、結婚とは合法的売春、子造許可証とか子造練習をしたいだけとか、セックスライセンス、そんな気がしていた。
女は視線を感じただけで、セクシャル・ハラスメントだと騒げる本能的性感はあるが、成美は自分が化粧する事は逆ハラスメントかも、そう思う時すらあった。現に兄の会社で、
「イメチェンしたね」
と、女性社員の髪型を言っただけで、ハラスメントだと言われ、兄は、
「女性の気分次第で、どうにでもなってしまう」
と、こぼして困惑していた。
成美は兄のそんな話を聞いて、不意に高校の生物の先生の話を思いだした。
―― すべての生物は、その種で宇宙征服を望んでいる ――
だった。その生物は意思を持ってそうするのかはともかく、本能だろうくらいは理解でき、人間もか? と成美は思った。
もしそうなら、結婚とは種の保存行為への儀式という事になり、確かにめでたい気がし、祝福の言葉も無限にあるように思えた。
某官僚の話も話題になり、
「あれは暴言だな」
と、兄も言って、
「女性の容姿やメイクを褒めるとセクシャル・ハラスメントだなんて、トラップじゃないか」
と、兄は嘆いた。
「大丈夫よ、お兄ちゃんにトラップ掛ける人いないから」
「どうして?」
「お兄ちゃんは、お金も力も、無いから」
と、成美は言って、“無いから”に力が入ったなと、浅ましさを感じた。

―― 了 ――


2018年4月20日金曜日

舶来好き by ショウ


.   純也が高校の同級生の垂香に会うのは高校卒業以来で、五年ぶりだった。
 当時の歴史の先生が、
 「母国の歴史を母国語で理解することこそが、英会話ならず他の外国語を身に着ける一番のコツというか、早道だ」
と言った先生の話で、小太り垂香は歴史科目だけは常に一番の成績を取っていた。それを試すかのように高校を卒業すると欧州へ行き、
 「帰国したよ」
と、三日前に五年ぶりの電話があった。
 純也は小太りの彼女をスイカスイカと虐めに似たようなからかい方をした事が、今更ながら恥ずかしく浮かんだ。
 もうすぐ二十五歳を目前に、純也は歴史の先生の話をできるだけ思い出し、垂香の話を理解しようとしていたが、いくら考えても、母国の歴史と外国語は結び付くこともなく、イヤゴザッタ(1853)ペリーさんとかの覚えていた当て句とかをぶつぶつ言うに過ぎなかった。それでも純也は気持ちのどこかに何かが引っ掛かったような、歯の隙間に刺さった取れ難い小骨のような思いが募ってしまい、垂香に電話をした。
 彼女のどこか誇らしげな声がし、自慢されると思うとむかついた。そして垂香の経験に嫉妬している自分が情けなくなると、聞いて学ぶか遣り込めるかしないと気が済まなくなり、時間の取れる日を聞いた。すると、
 「明後日なら暇だから」
と、いう事で会う事になった。

 その日、初夏を思わせる陽気に、葉桜のすきまから青空が見え隠れする桜並木の道で純也は、――やっぱり日本人だな――と、ほくそ笑んだ。
 待ち合わせの喫茶店は桜並木の傍にあった。
――まだ少し早いな――と、思いながら腕時計を見ると、約束の五分前だった。
 ふと、向こうを見ると、立てばシャクヤク座ればボタンと親父が美女を例えて言っていたような美女が近づいてきた。
 純也はシャクヤクとボタンが、どんな花かは知らなかったが、歩く姿はユリの花のユリは知っていて、頷いてニヤつき、それが垂香と知って、小さな溜息さえ漏れた。
 ライトブルーのブラウスにライトグレーのミニスカート。七分のスプリングコートをラフに着こなし、裾がわずかな風にさえひらめいている。
 純也は本当に小太り垂香だろうかと一瞬自分の目を疑い、生唾を飲みこむほどだった。
 小難しい哲学かなんかで遣り込めようという作戦は微かなそよ風にさえ、吹き飛んでいた。それでも互いを確認すると、精一杯に純也は、
「やぁ」
と、声をかけた。それに垂香は、肘を曲げただけで掌を見せ、小さく手を振って応えた。
 それを見て純也は、――思い込みと現実の差が大きいほど声も出なくなる――と、葉桜の隙間から自分を見たような気がした。喫茶店に入り、
 「コーヒー」
と、いって、Vサインをしただけで、まだ声が思うようには出なかった。
 どことなくもじもじする純也を、垂香は少し肩をすくめクスッとする。運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、垂香は英国英語と米国英語の違いやニューヨーク発音の違いの話をした後に、
 「日本人は歴史に、なぜという言葉を持たないから、根の無い上辺ばかりの話になり、会話が盛り上がらないのよね」
と、言うのだが、純也は頷いて相づちは打つが、理解できなく聞き役に回っていた。
 今まで、友達の誰からも理屈っぽいと言われながらも説得できていた事が、どうにも浅はかに思えてきた。その時に垂香が、
 「外人は綺麗事言うけど、本音は全く違って、いつも不安なの。だから一日に三回はアイラヴユウと言わないともう不安は頂点に達し、おしゃべりが止まらなくなるの。中身の濃い話をと勉強できたのよ」
 「外人とかい?」
 「英国人だもの、でも初めは嫌われたみたい」
 「厭じゃなかった?」
 「辛かった分、どんどん深みのある会話ができたわ。外人って、こっちの歴史で私を理解するみたい」
 「母国の歴史を知らないと、相手を理解できなくなるって事かい?」
 「だと思うわね」
 「んなのって、興味あまりないんじゃないの、普通?」
 「ね、だからいつまでも舶来コンプレックスって事に気が付かないで、外国文化を真似して喜んでるのよ」

2018年3月23日金曜日

男女、命懸けの差 by ショウ

”ふと見上ぐ 梅花浮かぶや 透き宙(そら)に”

 彼の言う、お付き合いでの約束事の多さに、高三の成美は、いささか意気消沈のまま、帰りの電車の中で、会話を反芻していた。
 ―お金、私がいいよって言わない時は割り勘。病気、何股掛けてもいいけど、性病だけは持ってこないで。妊娠、この責任は女性が100パーセント―
 お金の事と病気の事は理解できたが、妊娠の責任は理解できなかった。成美は女性としていつかは妊娠するだろうし、それが女性の証明だとさえ思っていた。しかし、一人でそうなる訳はないのだから、50%は男性にも責任が有ると言った時、彼は、
 ―今日は危険日って知っているのは、どっち?―
女性の方だった。だが成美は危険日を告げれば責任は対等でしょと、言ってみた。が、
 ―それでも女性側だよ―
 無情な男だと思い、もう会わない方がいいと思った。
 この時、優先席の妊婦に気が付き、望んで、それとも成り行きで? いずれにしても、この状態が彼女には280日間も続く。男には、これがない。これに耐えうるものが、女の私の中に有るのか無いのか、彼はそれを言ったのかもしれない。

  そういえば女子高の先輩が、
 「男に勝つことは簡単でも、自分のサガ(性)に勝つって大変よ。特に19前後の女にはね」
あの時、成美が、
 「両方が負けそうだったら?」と、聞いてみると、先輩は、
 「産んで乳離れまでは女の責任だけど。その後は男の責任なの」と、キッパリと言われ、成美にも理解できたが、その後の女にも責任はあると思って、
 「女って案外、残酷ね。産み捨てとか子殺しって女だけやるし」
と、言ってみた。
 「逆よ。食わせなきゃ死んじゃうでしょ。女は280日でも男は生涯よ」
 「妻子に対して?」
 「妻によ」
 「子には?」
 「母親は命懸けで産んで、夫婦でせいぜい子の二十歳までね。それまでが大変だからって、妻も仕事で夫を助けるわけじゃない、ね、女は優しいでしょ」

 電車が成美の降りる駅に着き、明るいホームに立った瞬間、
――仕事で大変な男でも、お産でご主人が死んだという話、聞いた事がないわ――

2018年3月9日金曜日

どっちが先 by ショウ


 村道の右手は薄氷の張った田んぼの遥か彼方に、白く聳える奥羽山脈が静かに横たわり、反対側に生えている大きな松の枝先が道に覆いかぶさり、その下を行く女子高生三人が映える。
 制服姿が寒そうに見えるが、手袋に好みの柄のマフラーを顎も隠れるようにし、軽やかに家路についている。犬を連れ自転車に乗った村の青年とすれ違うと、三人はクスクスと顔を見合って、はち切れんばかりの笑顔で青年の背を盗み見する。そして景色に見とれている小顔系の美香利が、
「ネネ、今の何点?」
 と、敏江に青年の採点を聞くと、貞美が、
「あいつの弟、クラス同じなんだけど。部屋にね、エッチ本一杯だってよ。でさぁ、見たのって聞いたのよ」
「見たって?」
と、美香利が貞美に聞くと、
「見るかぁ、あんなのって叱られちゃったわよ」
 すると敏江が、
「あんなのって言ったわけ?」
 この敏江の言い方に美香利は少し戸惑った。すると貞美が、
「ね、敏江、どういう意味、それ?」
「そうでしょ、あんなの、って言う事は見たから言えるセリフじゃない?」
 美香利は、そうかもしれないと思い、見ると見ない。どっちが普通か、少なくとも学校や両親からは良いよという話を聞いた事はなく、少し沈んでしまった。すると敏江が、
「興味持っていいんじゃない、普通よ。でしょ」
と二人に言い放った。すると貞美が、
「ライオンなんかはね、メスが最初なんだって、発情が」
「人も?」
 と、美香利が山脈から目を移して声を出した。すると、貞美が
「そっ!!」

2018年2月9日金曜日

無名人 by ショウ

 喜寿を迎えた猪之吉はいよいよ口達者になっても相変わらず老妻モミジのおさがりのワンピースを着て、テレビを見ていた。
 娘の松子は娘の桐子を大学に入れ、離婚騒動も納まり、仕事休みの楽しみだった買い物にも出るようになった。
 テレビでは相変わらず不倫騒動の文秋砲が炸裂している。
 そこに着物姿のモミジがお茶を持って来て、猪之吉の横に置き、
「有名人はすぐ騒がれて、ドジなのね」
と、吐き捨てるように言うと、猪之吉が、
「桐子の受験で松子が付き添って行き、その後すぐだったな。離婚騒動があったのは、松子はさ、夫婦の問題だからもう言わないでとか言うから、事情を深くは聞かなかったが、本当は、何があったんだい」
と、気になっていた事をモミジに聞いた。が、モミジはテレビをじっと見つめている。
 そこに松子が買い物から戻ったのか、玄関で声がし、台所でも音がして、やがて老親の居る居間に来ると、
「又なの、文秋砲。有名人ってホント損ね」
と言い捨て、軽い笑みで松子が、
「有名人じゃなくてよかった」
と、一こと言って鼻から笑みを漏らした。